こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

海洋天堂

otello2011-04-29

海洋天堂


ポイント ★★★
監督 シュエ・シャオルー
出演 ジェット・リー/ウェン・ジャン/グイ・ルンメイ
ナンバー 97
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


我が子を残しては逝けない。余命いくばくもない父は悲壮な決意をする。紺碧の海、透き通るような空、ポツンと一艘たたずむ小船から父子はお互いの足をロープで縛り身を投げる。重い障害を持ち、一人では生きていけないのは明白、ならばせめて一緒に死んでやろうという父親の覚悟が胸にしみる。己に未来はなく残された時間は息子のために使おうとする父の行動は、親子の間にのみ成り立つ一方的な無償の愛。映画は、末期がんに侵された男が自閉症の息子の受け入れ先を探す過程で関わる人々との触れ合い、濃やかな人情を描く。苦労多き運命に淡々と立ち向かう気まじめな男をジェット・リーが演じ、他人の前では感情を抑える姿は彼の苦悩を鮮明にする。


水族館に勤める心誠は死ぬ前に息子の大福の引き取り手を見つけなければならない。だが、成人した大福を預かる施設はなく困り果てていたところ、医師の劉先生の口利きでケアホームに入所する。そのかたわら、水族館の水槽で泳いでいた大福はサーカスの女ピエロと仲良くなる。


喜怒哀楽をうまく表現できず、変化を嫌う自閉症。大福の言動は非常に子供じみていて、心誠の手を煩わせてばかり。女ピエロを探して街に出て、マクドナルド人形の横で眠っていたりする。心誠はそんな大福にバスの乗り方、シャツの着方、掃除の仕方など、実用的なことを教え込む。愛情を押し付けたり思い出の場所やモノで感傷に浸ったりせず、ひたすら実用的な生活の術を伝授するのは、男親だからこそできる割り切りだ。


◆以下 結末に触れています◆


障害児を持った親はその子を普通の子供以上に深く慈しむ。それは不憫に思う心と自責の念がが混じり合った上、この子の存在を肯定できるのは自分たちだけと分かっているから。それでも子の成長とともに親も老い、面倒を見切れなくなる。誰かに世話をさせないと暮らせない障害者は、親の死後どうなるのだろう。しかも大福に心誠の思いが伝わったのかどうか、大福の表情からは読み取れない。死んでも死にきれないほどの心配事を抱えながらも笑顔を絶やさなかった心誠の魂は、果たして安らかに眠れたのか。甘いラストシーンが、大福が直面するであろう厳しい現実を逆に浮き彫りにしていた。