風にそよぐ草 Les herbes folles
ポイント ★★★*
監督 アラン・レネ
出演 サビーヌ・アゼマ/アンドレ・デュソリエ/アンヌ・コンシニ/エマニュエル・ドゥボス/マチュー・アマルリック
ナンバー 204
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
雑踏をせわしなく行きかう足元の喧噪が様々な人間の人生を連想させ、靴で彩られた女の足が醸し出すなまめかしさがエロティシズムをかき立てる。直截さは影をひそめても、いくつになろうとも男は女を求め、女は男の誘いを待つ。しかし、すでに中年を過ぎた男女の駆け引きは一筋縄ではいかないどころか奇想の域に達し、全く予想外の展開は狐につままれた浮遊感と出口が見えない迷宮にいるような不安に襲われる。だが、頭の中の疑問符はいつしか快感に変わり、さらにはどこに連れて行ってくれるのかという期待が高まっていく。
ジョルジュは駐車場で財布を拾い、持ち主のマルグリットの飛行免許写真を見て一目ぼれする。後日、マルグリットからのお礼の電話にそっけない態度をとったことを反省したジョルジュは、彼女に手紙を届けたりしつこく電話をしたりするが、マルグリットはストーカー被害を警察に訴える。
美しい妻がいるのに燃え上がる恋心を抑えきれないジョルジュ。一方で迷惑がっていた手紙が来なくなった途端に寂しさのあまりジョルジュに電話してしまうマルグリット。お互いに面識がないからこそ妄想が膨らむのか、もはやふたりの気持ちは常識では計り知れない方向に走り出す。それは男と女の感情の機微といった次元で描かれるのではなく、ある種の図々しさがもたらす意地の張り合い。押されるとかわし、逃げると追う恋のルールに不条理な裏技を連発させる心理ゲームにはエスプリが満ちている。
◆以下 結末に触れています◆
憧れのマルグリットから妻と一緒に飛行機にと誘われたときのジョルジュの怒りが、男の身勝手さを象徴していて思わず吹き出してしまう。また、優位に立ったジョルジュが自信たっぷりに振る舞ったかと思うと、妙なところで下手に出たりする。そうして、最後まで何が起きるかわからないふたりの恋の行方は、ハッピーな結末で“fin”マークを迎えるが、その後もエピソードは続く。全編人を食ったイメージの連続は、何事も経験してみないとわからないというメタファーなのだ。