こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キリマンジャロの雪

otello2012-05-21

キリマンジャロの雪 LES NEIGES DU KILIMANDJARO

オススメ度 ★★★*
監督 ロベール・ゲディギャン
出演 アリアンヌ・アスカリッド/ジャン=ピエール・ダルッサン/ジェラール・メイラン/マリリン・カント/グレゴワール・ルプランス=ランゲ
ナンバー 122
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

労働者として数十年まじめに働き、組合をまとめて会社と交渉してきた男はリストラを受け入れる。ところが、悪事にも手を染めず人に恨みも買わず生きてきた彼が、突然の暴力で大切なモノを奪われる。何をしくじったのか、どこで間違えたのか。事件の背景、犯人の素性が明るみになるにつれ、怒りよりも寛容、憎しみよりも愛を彼は心に目覚めさせていく。映画は、不況による失業者の増加が犯罪を呼び、実は原因を作ったのは主人公の世代の人々ではなかったのかという疑問を投げかける。さらに育児放棄にもスポットを当て、経済のグローバル化が先進国にも新たな貧困を生んでいる実態をあぶり出す。

引退したミシェルは妻・マリ=クレールや子供・孫に囲まれて悠々自適の日々を送っている。ある日、結婚30周年パーティで贈られたアフリカ旅行の航空券と多額の現金・キャッシュカードを強盗に取られてしまう。

犯人はかつてミシェルの同僚だった若者・クリストフ。父のいない彼は不在がちの母親の代わりに弟2人の面倒を見ていたのに、クビになって弟たちに満足な食事を与えられない。共犯者からもらったわけ前で弟たちをハンバーガーショップに連れていくシーンで、低価格のセットメニューに目を輝かせる姿が、彼らの切実な貧しさを象徴する。その後、ミシェルは警察に通報しクリストフは逮捕されるが、ミシェルはクリストフの気持ちと彼がおかれた現状を知れば知るほど、自責の念を募らせていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、マリ=クレールは介護の仕事をしつつも、バーで“悩みに効く酒”についてウエイターと軽口をたたくなど人生を楽しんでいるが、やはり彼女もクリストフの弟たちが気になり、ミシェルに黙って彼らの世話を始める。先の短い自分たちよりも子供たちに希望を託そうとするミシェルとマリ=クレール。ふたりの優しさは、世界を変えることはできなくても、少しだけなら未来をよい方向に変えられるかもしれない。燦々と降り注ぐ南仏の陽光の下、世の中捨てたものではないと思わせる作品だった。

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