こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ある男

優しくしてくれた。再婚もしてくれた。子供もできた。家族を大切にしてくれた。だがその幸福に満ちた日々はいったい何だったのだろうか。物語は、他人と戸籍を交換しなければ生きていけなかった男と、その事実に直面した妻の苦悩を描く。夫が事故死して初めて知った。彼が語った経歴はすべて嘘だった。ずっと信じていたのにだまされていたショックは大きい。それでも真実にたどり着くことで、夫が考えていたことがわかるかもしれない。彼女が、男と一緒に過ごした時間に感じた愛は本物だったと気づく過程は、同時に人間の出自は人々の好奇にさらされ、偏見を生む原因になると示唆する。人生を偽らざるを得なかった男、彼にはまったく罪はないのに、自分を罰するかのような生き方しかできない不器用さが悲しく切なかった。

シングルマザーの里枝は、夫・大佑の一周忌で焼香に訪れた義兄から遺影が別人だといわれ困惑する。里枝から調査を依頼された弁護士の城戸は大佑に成りすました男の素性を追う。

その後、城戸は戸籍ブローカーとの接触や偶然が重なって大佑の本名が誠だったことを割り出す。誠が背負った運命の十字架の重さに愕然とする城戸。同時に、帰化した在日朝鮮人三世でもある城戸は、口には出さないが態度の端々に現れる差別というものを肌感覚で知っていて、誠の気持ちを理解するとともに深い共感を寄せていく。プロボクサーとして成功の階段を駆け上っていく誠が日の当たる場所に出るのを嫌がる姿はむしろ謙虚さすらうかがえ、身体的な遺伝は仕方ないが性格的な特徴は環境で矯正する余地があると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

今の自分が嫌でしょうがない。できれば過去をすべて捨て別人として生きてみたい。そんな思いはだれしも抱くことはあるが、実行に移すほどの勇気はない。だがカネで買えるなら、実行に移す者は意外に多い。公的なアイデンティティさえ偽装は可能、城戸が最後に取った行動は、偶然知り合った人間の素性は疑ってかかるべきだと教えてくれる。マイナカードは大丈夫なのか?

監督     石川慶
出演     妻夫木聡/安藤サクラ/窪田正孝/清野菜名/眞島秀和/小籔千豊/坂元愛登/河合優実/でんでん/仲野太賀/真木よう子/柄本明/小野井奈々
ナンバー     217
オススメ度     ★★★*


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