こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

小説家の映画

筆を折って長い時間が経った。書きたいネタは枯渇したと思っていた。だが、紹介された女優との会話にインスパイアされ、突然創作欲がわいてくる。物語は、休筆中の作家がさまざまな人とめぐり合いもう一度クリエイティブな情熱を取り戻すまでの特別な一日を描く。たまたま立ち寄った本屋の店長が後輩だった。何気に昇った展望台で知人と再会した。さらに望遠鏡で見つけた散歩中の女優とも意気投合した。そしてまたループするかのように出発点に戻るヒロイン。幾重にも連なる偶然、人が人と出会いお互いに心の内を語り合うことで停滞していた人生が思わぬ方向に走り出す。奇跡のような幸運の連鎖、こういう状況を運命と呼ぶのだろうか。芸術作品は、他愛ない会話から生まれることもあるのだ。食事と酒が人間関係を濃密にすると彼女の行動は訴える。

小さな町を散策するジュニは公園で散歩中の女優・ギルスの知己を得る。ギジュニはギルスを主演に映画を撮りたいと言い出し、その後2人は食事を共にする。

タワー展望台で知り合った映画監督が、休業中のギルスに “映画に出ないのはもったいない” と言う。曖昧な笑顔で答えるギルス、すると突然ジュニが怒りだし監督に猛反論する。監督が押しつけがましい言い方をしたのは確かだが、ジュニはその言葉が自分にも向けられていると感じている。人それぞれ事情があるのだから個人の気持ちをもっと尊重すべきというジュニの主張は理解できる。それでも徹底的に論破するまで語気を緩めないジュニの、キレやすい性格が意外だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カメラは終始ジュニを中心とした会話にフォーカスし、登場人物たちのだらだら続く与太話を収めていく。そこには特に伏線が張ってあったり、そこから教訓を得られたりするわけではない。ジュニとギルスが食事中、ガラス越しにギルスを見つめる女の子が登場するが、その意味も効果もよくわからない。完成した映画をジュニは300回見たというが、この作品もそれくらい繰り返してみれば何かが見えてくるのだろうか。

監督     ホン・サンス
出演     イ・ヘヨン/キム・ミニ/ソ・ヨンファ/パク・ミソ/クォン・ヘヒョ/チョ・ユニ/キ・ジュボン
ナンバー     130
オススメ度     ★★*


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