こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

母へ捧げる僕たちのアリア

パパが口説いたときに歌ったアリアをもう一度ママに聞かせてあげたい。今は意識もないけれど、きっと思いは伝わるはず。物語は、歌好きの少年が夏休みに自らの可能性を見出していく過程を描く。地中海の太陽まぶしい南仏のビーチ近くに住んでいる。同級生は部活に忙しいのに、教育奉仕活動を強いられている。3人の兄たちは正業に就かず、どこからか日銭を稼いでくる。パパはいない、ママは昏睡状態で寝たきり。そんな、未来に希望が持てない状況で、少年は歌うことに喜びを見つける。オペラの名曲は何度も聞いて歌詞も覚えている。だが、生活を最優先させようとする兄たちは少年の夢には否定的。それでも理解ある指導者に恵まれた彼は、人生でなすべきことに出会う。豊かな暮らしを求めて海を渡ってきたのに現実は厳しい移民たちの日常がリアルに再現されていた。

作業中に音楽室から聞こえてきたパバロティのテノールに引き寄せられたヌールは、担当講師・サラに誘われて合唱部に入る。作業を抜け出して練習に参加するが、長兄のアダムに反対される。

ヌールはネット上のアリアをパソコンからスピーカーにつなぎママの部屋に流している。歌はママに聞こえている、そして必ず反応を見せると信じて。長兄と次兄はママを病院に預けたりせず自宅で介護している。三兄はドラッグに手を染め警察に目をつけられている。基本的に4兄弟のママを思う気持ちは強い。病院に連れ去られたママを連れ戻そうとするシーンは、自分たちの将来よりも家族のきずなを大切にする彼らの絆の強さを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヌールは音楽教室をさぼりがちになるが、サラの根気良い指導で歌を上達させていく。さまざまなトラブル、特にママのピアノを守ろうとしたことで、サラはアダムにも認められる。今は貧困層でも、チャンスとやる気があればいつでも世界は彼らのために扉を開いている。ラップミュージックが似合いそうな環境で、切ない曲調で愛の喜びが歌われる「人知れぬ涙」、そのミスマッチが効果的だった。

監督     ヨアン・マンカ
出演     マエル・ルーアン=ベランドゥ/ジュディット・シュムラ/ダリ・ベンサーラ/ソフィアン・カーメ/モンセフ・ファルファー
ナンバー     120
オススメ度     ★★★


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