こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実

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乱闘もいとわない1000人の左翼学生が舌なめずりして待ち構えている。敵の本丸にたったひとりで乗り込んだ男は一歩も引かず、言葉だけを武器に彼らの挑発を受けて立つ。圧倒的なアウェイ戦、だが彼は攻撃を受け止めた上で、相手の力を利用した反撃に出る。映画は、1968年に行われた三島由紀夫と東大全共闘の論戦の発掘フィルムを再構成、三島がいかに優れた言論人だったかを検証する。天皇を信奉し自衛隊体験入隊民兵組織を作る筋金入りの右翼の三島と、革命勢力を自任する全共闘。三島という豪速球投手の球をフルスイングで打ち返してやろうと意気込んだ全共闘打線が、予想もしなかった切れ味鋭い変化球に手玉に取られる。そんなたとえがぴったりのやり取りは、スリリングかつエキサイティングだ。

東大駒場キャンパスに招かれた三島は大教室の壇上に立ち、非合法の暴力や決闘の思想といった決意表明のあと、学生の代表と議論する。三島は終始声を荒げることなく彼らの過激な発言を受け流す。

全共闘一の論客と呼ばれる芥がまだ赤ちゃんの娘を抱えたばこをくわえながら三島に質問をする。芥は学生の分際で、文学者としての地位を確立している三島に対し最低限の礼儀すら示さない。既成の価値観をぶち壊すのが左翼的なのだが、この年長者を見下した言動は不快極まりない。おそらく仲間であるはずの聴衆たちも同じ気持ちなのだろう、あくまで紳士的な態度で対応する三島に好意を抱きつつある。芥の言葉は難解な単語を弄するばかりで空疎、対する三島の応答は含蓄に富み思いやりに満ちている。ほどなく芥はステージを去るが、50年経った現在でも負けを認めない芥の往生際の悪さは左翼的醜悪さを体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

三島はあくまで学生たちへの敬意を崩さない。さらに、自分と全共闘が戦っているのは同じ “体制” だと喝破し、共闘を持ち掛ける。理論でも言葉でも実践でも、すべては三島の方が二枚も三枚も上。日本の左翼学生運動家は、あさま山荘で自壊する前に三島の覚悟を見習うべきだった。

監督  三島由紀夫/芥正彦/木村修/橋爪大三郎/篠原裕/宮澤章友/原昭弘/椎根和/清水寛/小川邦雄/平野啓一郎/内田樹/小熊英二/瀬戸内寂聴
出演  豊島圭介
ナンバー  60
オススメ度  ★★★★


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