こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

21世紀の資本

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ベルリンの壁崩壊で自由世界の勝利が確定づけられた。資本主義の未来も明るいものだった。だが、過当競争は新たな格差の原因となり、いまや革命前の欧州に似た一部の富裕層と大多数の貧困層に分断された社会になっている。映画は、ベストセラーになった経済学入門書を紐解き、多数の学者のインタビューと過去の映画の引用で分かりやすく解説する。18~19世紀、封建制度を転覆させても貴族に替わって銀行家や資本家が搾取する側に回っただけだった。第一次世界大戦で旧制度は消滅したが、国家主導の経済が軍国主義や排外主義を加速させた。そして第二次世界大戦後出現した中産階級が西側世界の繁栄を支える。ところがグローバル化が再び階層差を生み出す。圧倒的なナレーション量についていくのは基礎知識と集中力が必要だが、それでも難解な原作の要諦は理解できた。

18世紀の平均寿命は17歳。重税に苦しむ農民やその日暮らしの都市の住民は食べものも満足になく病気や怪我でも治療してもらえない。一方、人口の1%に過ぎない支配層は贅沢を楽しみ貧困層の命など一顧だにしない。

ウォール街」主人公の “greed is good” というセリフが30年たった今でも色褪せず、近年はGAFA等の巨大IT企業が税金逃れでそれを体現している現実。しかし全体の経済成長を重視する政府の方針のせいで、再分配はいきわたらず中間層が没落していく。さらに、中国が国家主導の資本主義というまったく斬新な形態で世界の覇権を握ろうとするなかで、西側先進国では“労働” の価値がますます低下する。働くよりも投資に回した方が金持ちになれる。投資するカネがある層はより一層富み、そうでないものは低賃金を強いられる。いかにも歪んだ社会ではあるが、それは民主主義が産んだ仇花でもあると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ごく少数の支配層が富を独占する社会構造を抜本的に改革するには革命か戦争しかないとピケティは断言する。ならば新型コロナウイルスが蔓延する2020年、それに匹敵する変革が起きるのではとこの作品は予感させる。

監督  ジャスティン・ペンバートン
出演  トマ・ピケティ/ジョセフ・E・ステイグリッツ/ケイト・ウィリアムズ/スレシュ・ナイドゥ/イアン・ブレマー/ジリアン・テット/フランシス・フクヤマ
ナンバー  69
オススメ度  ★★★


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