夢にまでに見た花の都、そこでの出会いが彼女の運命を決定づけた。ファッション界のアイコンとヌーヴェルバーグの旗手、2人は彼女の中に洗練と真実を見出し、その可能性を引き出すメンターとなる。映画は、1960年代フランス映画界のミューズとなった女優の半生を追う。野性的な粗削りさが魅力的だったモデル時代、女優転身後はさらに輝きを増した。そしてハリウッド進出に成功した暁にはNYで映画製作を始める。その時々で彼女にかかわった人々は当代一流ばかり、皆彼女を称賛し崇拝する。一方、年齢を重ねた彼女が思い出を語る時は、人は恵まれた人間関係の中で成長していくと訴える。もちろん挫折や葛藤、他人には明かせない苦悩もあったはず。でも彼女は女優、カメラの前のみならずあらゆる場面で「自身」を演じ続けているのだ。
デンマークで両親の愛を知らず祖父母に育てられたアンナは、ロッセリーニや米国製ミュージカル、ジャズなどの外国文化に夢中になった少女時代を過ごす。17歳になると単身パリに出る。
カフェで佇んでいるとモデルにスカウトされ、ココ・シャネルにアンナ・カリーナと改名されたちまち運気は上昇、TVCMの仕事で有名になるとジャン=リュック・ゴダールからオファーが来る。端役では嫌と断ると、次に来たのは「小さな兵隊」主役の依頼。過激な内容が検閲に引っかかり上映禁止になったりもする。それらの過程を、映画のワンシーンをつなぎながらナレーションで補う展開は非常にパワフルで説得力があり、映像の持つ力を改めて感じさせてくれる。古いモノクロフィルムに残されたアンナやゴダールは生気にあふれ、瑞々しいまでの若さに輝いていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
“現在のアンナ” は当然しわも深く刻まれた年齢になっているが、凜としたたたずまいは変わらない。この作品が55分という中途半端な長さで、NY時代以降に言及されていないのは、アンナが2019年末に逝去したからだろうか。それでも出来上がった部分だけをダイナミックに編集した映像はアンナの美しさを際立たせていた。
監督 デニス・ベリー
出演 アンナ・カリーナ
ナンバー 67
オススメ度 ★★★