こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アルプススタンドのはしの方

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あんまり乗り気ではなかったのに、学校の方針で仕方なく来てしまった。ルールも知らない野球、でも必死でボールを追っている選手たちを見ているうちに、少しずつ胸の奥にくすぶっていたものに火がつき始める。物語は、夏の全国大会に出場した野球部の応援にきた高校生たちが、前向きに生きる姿勢を取り戻していく姿を描く。挫折から立ち直れなかった。しょうがないとあきらめていた。違う道を探しているけれどまだ見つからない。自分の不始末が申し訳ない。四者四様の葛藤を抱えながら熱のこもらない声援を送る彼らの心を占めているのは報われない思い。一度の失敗で自信をなくし、再度チャレンジする勇気を失っている。そんな4人がそれぞれの本音を吐き出し、お互いを理解し決意を新たにしていく過程は、若さの持つ可能性を示していた。

演劇部のあすはとひかる、元野球部員の藤野、秀才だがネクラの宮下は、応援団には加わらずスタンドのはしの方に屯している。暑さに参りながらも次第に試合に興味を持つようになる。

友達がいない宮下に声をかけるひかる。宮下とかつて授業でペアを組んだあすはは彼女にいい印象を持っていなかったが、逆に宮下はあすはに感謝している。己の気持ちをうまく表現できない宮下の不器用さが、絆とか友情とか仲間といったキーワードに馴染めない人々の孤独を象徴していた。また、藤野はいくら努力してもライバルに敵わないと知ると野球部をやめたが、超下手くそだが練習の虫の同級生を見下すことでかろうじてプライドを保っている。あすはとひかるも積極的に行動に移せないままでいる。みな素直になれず悶々としているあたり、進路選択を迫られた高校3年生の悩みがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

希望や理想を追い求め全力疾走するだけが青春じゃない。蹉跌・失恋・不満・敗北。それら叶わなかった願いも含めて、乗り越えるエネルギーが無限にあるのが彼らの特権。グラウンドでプレーする選手を通じて、それを引き出すきっかけをつかんだ彼らの夏はまぶしかった。

監督  城定秀夫
出演  小野莉奈/平井亜門/西本まりん/中村守里/目次立樹/黒木ひかり
ナンバー  118
オススメ度  ★★★*


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