こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボヤンシー 眼差しの向こうに

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同じ年頃の子は学校に通っているのに、今日も肥料撒きをしなければならない。父に文句を言っても聞いてもらえず、不満は増すばかり。こんな田舎で人生を浪費したくない。そう決心した少年は黙って故郷を後にする。物語は、隣国に出稼ぎに出た少年がたどる過酷な運命を描く。きちんとした仕事を紹介してもらえると思っていた。借金を返せば自由になれるはずだった。ところが、彼が送り込まれたのは逃げ場のない小さな漁船。乗組員たちは暴力で出稼ぎ労働者を支配し、連日連夜重労働を課す。食事は炊いた米だけで、板敷きの狭い船倉で雑魚寝する。やがて彼は、あっせん料を払わなかった者は漁船に売り飛ばされたと知るが、後の祭り。力尽きるまで乗組員たちにこき使われる。カメラは少年に寄り添い、豊かな生活を夢見た少年が感情を殺していく過程を冷徹に見つめ続ける。

カンボジアの田舎町で家族と暮らすチャクラは家出してバンコクに向かう。同じ村からトラックに押し込められた男とともに乗った漁船では雑魚を仕分ける作業を振り当てられる。

数人いた労働者のうちひとりの男がぐったりとなる。誰も助けない。船長はあっさりと彼を甲板から突き落とす。泳いで逃げようとした男は捕まり、鎖を巻かれて海に沈められる。船長を殴った男はさらに峻烈な制裁を受ける。働けない者、逃げる者、逆らう者はいらない海の掟の前に、チャクラは言葉を失い表情も消えていく。もはや恐怖も悲しみも怒りも絶望も感じない。ただ心を無にして体を動かすのみ。そんな奴隷労働の実態がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

チャクラの根性が座っているのを見越した船長は、時折彼に魚の切り身を与え、船の操縦をさせたりする。チャクラは新しく補充された労働者との軋轢にも耐えながら、気づかれないように打開策を練り、決行に移す。死の冷酷さよりも生きる残酷さが強調される映像はチャクラの変化を見逃さない。缶飲料を手渡され少しだけ微笑むチャクラに、多くの悲劇を見すぎた人間の持つ哀しみが凝縮されていた。

監督  ロッド・ラスジェン
出演  サーム・ヘン/タナウット・カスロ/モニー・ロス
ナンバー  127
オススメ度  ★★★★


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