こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

異端の鳥

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殴られ蹴られ打擲され埋められ川に突き落とされ犯され肥溜めに放り込まれ吊るされても、決して生きることをあきらめない。少年は、どれほど卑劣な仕打ちを受けても感情を殺して耐え忍ぶ。物語は、独ソ戦の戦場となった東欧で、ユダヤ人孤児が過酷な運命に翻弄される姿を描く。どこに行っても異端視され、まともな人間として扱ってもらえない。引き取ってくれる大人がいても、粗末な食事と寝床の引き換えに重労働を課される。痛みや辛さはもう感じないように自制している。屈辱を受け流すしたたかさもいつの間にか身につけた。そんな彼に親切に接してくれる人もわずかだがいる。あらゆるショットが端正な絵葉書のごとく美しい詩情に満ちたモノクロームの映像は、少年の受難をより残酷に際立たせていた。

一緒に暮らしていたおばに先立たれた少年は村に行くがリンチにあい、呪術師に拾われる。病気に罹り捨てられるが、川に流されたところを水車小屋の夫婦に助けられ、雑用をこなすようになる。

冒頭、いきなり数人の子供に襲われ持っていた動物を焼き殺される少年。その後も、往く先々で凄惨な暴力を体験する。少年を迫害するのは普通の村人たち、その容貌が不吉さを直感させるのだろう。まだ電気も水道もない農村部では排他的保守的な一方で、コミュニティに属さない人々は少年に寛容である。鳥刺し男が白ペンキを塗った鳥を空に放つと、群れの他の鳥たちが白い鳥を集中攻撃する。均一な集団に異質な者が紛れ込んだときのヒステリックな反応は、人間社会を象徴するわかりやすいメタファーとなっていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ドイツ軍占領地域では少しは文明の香りがする。少年はSS将校のブーツを磨いて命拾いしたり、ドイツ兵に逃がしてもらったり。ソ連軍兵士からは初めてきちんと対応してもらう。独ソ両国に国土を蹂躙された被害者であると同時に、より立場の弱い者に対しては加害者だったこの国の住民たち。戦争のせいにはできない、人間の邪悪な本性がコントラスト鮮やかに浮き彫りにされていた。

監督  ヴァーツラフ・マルホウル
出演  ペトル・コラール/ニーナ・シュネヴィッチ/アラ・ソコロワ/ウド・キアー/イトカ・チュヴァンチャロヴァー/ステラン・スカルスガルド/ハーヴェイ・カイテル
ナンバー  173
オススメ度  ★★★★


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