こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グッバイ、リチャード!

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余命わずかと宣告された。幸いまだ心身ともに深刻な症状は出ていない。ならば残された時間で何をすべきか。何をなすべきか。物語は、自身の運命を妻子に告げようとして失敗した男が、いい人の仮面を脱ぎ捨てて思い通りに余生を送ろうとする姿を描く。病状を打ち明ける前に、妻には上司との不倫を告白された。娘には同性愛者宣言をされた。必死で築いてきた家庭とは何だったのか。懸命に守ってきた絆も無意味だった。その日から彼はタバコを吸い酒を浴びるように飲みドラッグにも手を出すが、一向に気持ちは晴れず、死の恐怖が大きく膨らんでいく。きっと評判のいい教授だったのだろう。善良で小心だとも思われていたはず。そんなレッテルをぶち壊すかのごとく偽悪的に振舞う主人公の孤独が哀しかった。

ステージ4のがんと診断された大学教授のリチャードは、新学期の教室に集まった学生を10人ほどに絞り、型破りな講座を始める。学生たちは文学における人の生き方を探り、芝生の上で発表する。

“fuckfuckfuckfuck!” 何度そう叫んだか、己の不運を呪い迫り来る最期の瞬間におののく。落ち着きを取り戻しても、リチャードは胸中を他人に悟られまいと、妻の不貞を許し学生たちの前では変人を演じる。政治や経済や法律ではなく、文学にのみ純粋な興味を抱く者だけを残したゼミは、やがて人生の真実を探求する講義に変貌していく。彼が伝えたかったのは善く生きる意味を問い続ける大切さ。一方で、人前では死を恐れぬクールな男ぶっているが、実は周囲に弱みを見せたくないと虚勢を張っているという矛盾も抱えている。覚悟なんか簡単にできるものではない。悪あがきを繰り返すリチャードの態度には人間の弱さと愚かさが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

とりあえず親友のピーターに心配はしてもらっているものの、妻や娘に知らせる機会を逸したまま時は過ぎていく。そしてすべてを話した後、リチャードは旅立つ。愛なんか信じられない、結局人はひとりで死んでいく。道なき方向を選んだリチャードの選択が切なかった。

監督  ウェイン・ロバーツ
出演  ジョニー・デップ/ローズマリー・デウィット/ダニー・ヒューストン/ゾーイ・ドゥイッチ/ロン・リビングストン/オデッサ・ヤング
ナンバー  139
オススメ度  ★★*


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