夢をあきらめたわけではないが、うだつの上がらないまま時間が空しく過ぎていく。アルバイトで食いつなぐ日々、恋人とは別れたのにいまだ同棲している。なにもかもが中途半端なまま、前に進むガッツを持てず方向転換する勇気もない。そんな時脳裏によみがえるのは高校時代のあの男。物語は、役者志望の男が満たされぬ現状に悶々としながら過去の記憶に決着をつけようとする姿を追う。つるんでいた友人たちとは疎遠になってしまった。再会しても、懐かしさよりも何者にもなれていない現実を突きつけられ気分は沈み込むばかり。でも、あいつの思い出はなぜか自分を慰めてくれる。ところが、10年経った今ではわかる、あいつも苦しかったことを。不安定な生き方をしているからこそ理解できる、社会に適応できない男の気持ちがリアルに再現されていた。
バイト先で高校時代の友人・多田から声をかけられた悠二は、おだてると裸踊りをする佐々木の消息を聞かされる。佐々木の家庭事情は複雑だったが、彼らは木村を加えた4人でいつもつるんでいた。
悠二が覚えているエピソードは、決してきらめいてもいないし悲哀もまとっていない。まだ己が何に向いているかも、何をやりたいかも、その捜し方すらわからない。それでも悠二は佐々木に対してだけは、“こいつより悪い人生にはならない” と密かな優越感を抱いていたのだろう。仲はいいけれど心の底では小バカにしている。結局悠二は器の小さな人間、負の感情が次々と湧いてくるのを認めたくない葛藤が繊細に表現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
佐々木の急死を知らされた悠二は、久しぶりに帰った故郷で佐々木にも親しい女の子がいた事実に驚くが顔には出さない。ふたりは付き合っていたのか、佐々木には釣り合わないほど彼女はかわいい。死んだ後も面倒を見る彼女を見て、悠二は元カノとの関係に筋を通さなければならないと思いいたる。勝っていたと思っていたのに実は負けていた。しかももう逆転の機会はない。佐々木を思う悠二の瞳は青春の蹉跌に満ちていた。
監督 内山拓也
出演 藤原季節/細川岳/萩原みのり/遊屋慎太郎/森優作/小西桜子/河合優実/鈴木卓爾/村上虹郎
ナンバー 218
オススメ度 ★★★