こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シャドー・ディール 武器ビジネスの闇

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相対する塹壕から聞こえてくる歌声に拍手が沸く。兵士たちは交戦中であることを忘れて小銃を持たずに前線に姿を見せ、敵味方関係なく交流を始める。「戦場のアリア」で描かれた光景、第一次世界大戦のころまではまだ戦う相手の顔が見える距離での戦闘だったのだ。米国ではこの戦争で2万人が億万長者になったという。時は下り、米ソ冷戦構造が崩れて以降、中東を始め混迷を極める国際情勢は武器商人にとって絶好のビジネスチャンス。彼らは政府高官のみならず指導者まで賄賂漬けにして暴利をむさぼっている。映画は、そんなモラルなき武器商人たちの暗躍をあぶりだす。古くはレーガン=サッチャー時代からブッシュ政権ネオコン、さらにオバマ元大統領にまで言及、武器商人たちの実態を暴く。

同盟国イスラエルとの関係を横目で見ながらサウジアラビアに大量の武器を売り込む米国の政商たち。サウジは潤沢なオイルマネーとバンダル王子の手腕でたちまち軍事大国化していく。

仲介する武器商人は「カネとセックス」で決定権のある役人・政治家に取り入っていく。言い値で買ってくれる彼らは上顧客、税金を浪費して私腹を肥やしている。発展途上国では先進国よりもひどく、すべては賄賂の額で決まっていく。このあたり、膨大な量のアーカイブ映像に学者やジャーナリストの証言を絡め、主に英米の政治家たちの腐敗を告発していく。就任早々核廃絶を訴えノーベル平和賞を受賞したオバマでさえ、武器売買に積極的にならざるを得ない。高邁な理想が現実に蝕まれ、オバマでさえ二枚舌を使い分ける姿は “リベラル” を標榜する左派の敗北を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イラク戦争後、アルカイダやISを掃討するために多国籍軍西アジアに介入する。そこではテロリストが市街地に紛れ込み、一般市民が暮らす住宅にまで高性能ドローンで爆撃される。ドローンが庭で遊んでいる子供たちを誤爆する映像は、思い出すだけで背筋が寒くなる。被害を受ける弱者とますます太る武器商人。この対比に現代の格差社会が凝縮されていた。

監督  ヨハン・グリモンプレ
出演  アンドルー・ファインスタイン/デビッド・リー/ヘレン・ガーリック/リッカルド・プリビテラ/ピエール・スプレー/ビジャイ・プラシャド
ナンバー  12
オススメ度  ★★★


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