真人間になって人生をやり直すはずだった。親切にしてくれる人たちの厚意に応えるつもりだった。だが、反社がすぐに過去をチャラにできるほど社会は甘くない。物語は、刑期を終えて出所してきた元殺人犯が周囲の白眼視に耐える姿を追う。持病持ちですぐには仕事が見つからない。生活保護を申請しても規定通りにしか動いてくれない。元々チンピラ殺しを反省しているわけではない。やがてTVの取材を受けるうちに、少しずつ粗暴な性格が戻ってくる。同時に、新たにできた知人と交流していくうちに、普通に暮らしている人たちのやさしさに触れ、世間は敵ばかりではないと気づいていく。更生の道は長く険しい、それでも生きていかなければならない主人公の圧倒的な肩身の狭さを、役所広司がリアルに再現していた。
東京で小さなアパートを借りた三上は求職活動を始めるが、運転免許も失効していてなかなかうまくいかない。ある日、オヤジ狩りをしている半グレと遭遇、2人をまたたく間にブチのめす。
生き別れた母親探しをする名目で、小説家志望のディレクター・津乃田が密着している。最初は本物のヤクザを前に興味津々だった津乃田だが、マジキレした三上の形相に踏み入れてはいけない領域に足を突っ込んだと恐れ、カメラを回さずに逃げ去る。津乃田の中途半端な覚悟は三上の社会復帰に対する思いと重なる。どこかに逃げ場を作っておいて、失敗してもなんとかなると思っている。そのあたり、ギリギリまで追いつめられないと本気になれない男たちの甘えが、人間の弱さを象徴していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
その後、介護施設のアルバイトとなった三上は、生まれて初めて働いて賃金を得る喜びを実感する。ところがそこでも知的障碍者職員がいじめられているのを見て怒りに火が着きそうになる。妄想は映像にする必要はないが、三上の本性は暴力的であると示す。そう簡単に人間は変われないが、変わり続ける努力を惜しまなければきっと理解してもらえる。三上が握りしめたコスモスはわずかな希望を抱かせてくれた。
監督 西川美和
出演 役所広司/仲野太賀/六角精児/北村有起哉/白竜/キムラ緑子/長澤まさみ/安田成美/梶芽衣子/橋爪功
ナンバー 26
オススメ度 ★★★*