こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マーメイド・イン・パリ

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数十人の男の心臓を停止させてきた美しい呪いの歌声も、恋に破れた男の胸には響かない。必死で助けようとしてくれるのも、身を守ってくれるのも彼の純粋なやさしさであって、決して彼女の美貌に気を惹かれたわけではない。物語はパリの川岸に打ち上げられた人魚と彼女を見つけた男の冒険を描く。狭いバスタブに匿われた人魚をかいがいしく世話する男はナイトクラブのパフォーマーでもあり、サービス精神は旺盛。懸命に介護してくれる男に、人間への憎しみに満ちていた人魚は次第に心を開いていく。セーヌ川に浮かぶボートでのアンニュイなショー、男が大切にしている立体絵本、夜のとばりが下りた町でひときわきらめくエッフェル塔etc. ありきたりの日常に少しだけファンタジックな魔法がかけられたような映像は幸福な奇跡を実感させてくれる。

意識のない人魚を見つけたガスパールは病院に運び込むが門前払いされ、仕方なく自室に連れ帰り介抱する。尾ひれから青い血を流す人魚はルラと名乗り、2日で海に帰らないと死ぬと言う。

船乗りに仲間を大勢殺されたルラは人間は恐ろしい存在と思っていた。初めて体験する人間との交流に目を丸くしながらも、善人もいると学んでいく。ルラとすっかり打ち解けたガスパールは、ふたりのデュエットをレコーディングする。楽しくも切ないメロディは “恋は喜びと痛み” というガスパールの言葉を象徴する。ルラは少しずつその喜びを理解していくが、一方でガスパールは心臓に痛みを覚えていく皮肉。恋に落ちてはいけない相手ほど、愛おしく尊いと彼らの関係は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ルラの歌を聞いて心停止した医師の恋人・ミレナが、彼女の身柄をガスパールから奪おうと追いかけてくる。それと知らず夜のパリで思い出作りするガスパールとルラ。水族館の水槽でふたりが舞うように身を絡ませ踊るシーンは、許されない恋だからこその美しさに満ち溢れ、彼らの思いは永遠に色あせないと訴えていた。ルラの存在を環境問題と絡ませないあたりが説教臭くなく心地よい。

監督  マチアス・マルジウ
出演  ニコラ・デュボシェル/マリリン・リマ/ロマーヌ・ボーランジェ/ロッシ・デ・パルマ
ナンバー  27
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://mermaidinparis.jp/