こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ドリームランド

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夢にまで見た新天地で待っていたのは絶望。乾いた大地は作物の育ちが悪く、町にも仕事はない。人々は、それでもこの土地にしがみついている。物語は、強盗殺人犯として警察に追われている女と、外の世界に出たいと願っている少年の逃避行を描く。女は傷ついて弱っていた。助けを求められた少年は、大人には知らせず彼女を匿った。しかし彼女は賞金付き指名手配中、捜査網は徐々に狭められていく。ところが “誰も殺していない” という彼女の言葉を信じた少年は、己の未来を彼女に託す。映像から漂うそこはかとない切なさは現状に希望を持てない少年の孤独を象徴し、コロナ禍でチャンスを奪われた多くの若者の不満を代弁する。数キロ先から迫ってくる大砂嵐になすすべもなく身をひそめるだけ、そんな大自然の中で生きる厳しさがリアルに再現されていた。

小屋に隠れていたアリソンを見つけたユージンは、彼女の太ももの弾丸を抜いてやる。ユージンは美しく魅力的な彼女に心を奪われ、父のトラックを盗み出し、一緒に逃亡する。

手にした拳銃をユージンの足元に投げ出すアリソン。降伏することで彼の純粋な気持ちを利用し、あっさりと味方につける。ユージンもまた土地の呪縛から解放されたアリソンに、ここではないどこかへ連れ出してくれるのを期待し、できる限り彼女に協力する。傷がふさがるまでの時間を稼ぐため、ユージンは誰にも相談できないまま懸命に彼女を守ろうとする。もはやユージンがアリソンに抱いているのは成熟した女への恋心、それを見透かしたアリソンと、必死で抑えようとするユージンのぎこちないやり取りが新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

目的地まではまだまだ遠い、ふたりともこの逃避行が成功するなどとはほとんど思っていない。だが、立ち止まってあきらめた瞬間人生は終わる。それを知っているからこそ彼らは走り続ける。そこにはニューシネマの時代にはやった滅びの美学が鮮烈に投影されていた。ただ、そばにベッドがあるのだから初体験はバスタブでなくてもよかったと思う。

監督  マイルズ・ジョリス=ペイラフィット
出演  フィン・コール/マーゴット・ロビー/トラビス・フィメル/ケリー・コンドン/ダービー・キャンプ
ナンバー  72
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://dreamland-movie.jp/