長身イケメン引き締まった肉体。時に激しく時に優雅に、彼がもたらす陶酔は決して忘れられない。だがこちらからは連絡できず、気まぐれにかかってくる電話を待つだけ。物語は、年下のロシア人にはまってしまった中年シングルマザーの葛藤を描く。講義中も執筆中も映画を見ていても食事中でも、頭の中は彼のことでいっぱい。注意散漫になった末、息子を轢きそうになったりする。妻がいると知っていてもほとばしる思いは止められない。ふたりに未来がないのもわかっている。それでも、彼と過ごすわずかな時間のためには平穏な今の暮らしをすべて失ってもいい。これまで付き合った男たちとはなかった “恋に落ちる” 感覚。彼にとっては単なる浮気相手にすぎないのに、恋に恋しているヒロインの心が繊細に再現されていた。
大学で文学の講義を受け持つエレーヌはロシア大使館の警備員・アレクサンドルに夢中。エレーヌは、息子がいない昼間の自宅でアレクサンドルと情事を楽しんでいる。
もう若くないのは自覚している。それでもアレクサンドルと会う直前は乙女のようにときめいている。新しい服を買い、メークも念入りにし、他の誰にも見せたことのない笑顔で彼を待っている。アレクサンドルはエレーヌに愛をささやくわけでもなく、エレーヌの話には無関心。ただ、彼女の唇を奪い、下着を下ろし、己の性欲を満たす。髪をなでてくれたりもするが、特に思い入れもない。彼女はパリの “都合のいい女” なのだろう。恋愛においてもフェミニズム優先の昨今の米国映画とは違う、「恋こそ人生」と知るエレーヌからは洗練された女の芳香がふんだんに漂っていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
連絡がなくてしびれを切らしたエレーヌは大使館に電話したりする。何も言わず帰国したアレクサンドルを追ってモスクワの街を彷徨したりもする。さらに息子は前夫の元に去ると、妄想に取りつかれたりもする。もう捨てられたのは間違いないが、気持ちを整理しようとしても心が追い越していく。そんな彼女は少し美しくなったように見えた。
監督 ダニエル・アービッド
出演 レティシア・ドッシュ/セルゲイ・ポルーニン/ルー=テモ・シオン/キャロリーヌ・デュセイ/グレゴワール・コラン
ナンバー 121
オススメ度 ★★★*