探偵募集の新聞求人広告に集まった80歳から90歳までの高齢の男たち。みな勤労意欲満々で、健康かつ頭の働きも衰えていないと懸命にアピールする。だが、面接で必須能力とされたスマホや小道具が使いこなせず次々に落とされていく。物語は、虐待の証拠をつかむために老人ホームに潜入した男のスパイ活動を追う。自らホームの世話になる名目で、ターゲットの身辺を探る。名前はわかっているが顔はよくわからない。ひとりずつ部屋と名前を確認していくうちに、ほとんどが女という環境のなか、いつしか彼は彼女たちの良き話し相手となっていく。人生最晩年にやってきた突然のモテ期、それに動じず上司の命令をこなす彼にはもはや下心などなく、それがまた女心をくすぐる。噂をする老婆たちの瞳が少女のように輝くのが印象的だった。
探偵に雇われたセルヒオはソニアを捜すために入所者の老婆たちに話しかけるが、答えはいまいち要領を得ない。しかし個室の名札を確認する方法でソニアを特定し彼女に接近する。
心身ともに衰えてはいるがまだつきっきりで世話されるほどではない老人たち。退屈を持て余し、外に出たいと鍵のかかった出口にたむろする。面会者のあるものはうらやましがられる。他人を寄せ付けない者もいる。それぞれに個性があり、当然ながら老人とひとくくりにはできない。家族が迎えに来ることはたぶんない、ホームを出るのは死ぬときとみなわかっているのだろう。それでも、生きることをあきらめず今日1日を意義のあるものにしようと表面上は取り繕っている。それは、本当は孤独を感じているのに他人に気づかれたくないから。そんな老人たちのリアルな気持ちが丁寧に掬い上げられていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
もちろん、いまさら夢など語り合うわけではない。だからと言って絶望しているわけでもない。少しずつ認知機能と肉体が弱りやがて命の火が消える、それは人間が安らかに死を迎えるためのステップなのだとこの作品は教えてくれる。ただ、この作品をドキュメンタリーに分類していいのか?
監督 マイテ・アルベルディ
出演 セルヒオ・チャミー/ロムロ・エイトケン
ナンバー 123
オススメ度 ★★*
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