港湾地域の工場で加工する原材料や廃材を管理している2人の若者。直径2mほどもある大きなタイヤをつけた大型の重機を尻目に彼らは清掃作業に従事する。まだ触らせてもらえない、彼らの扱えるのは自転車ぐらい。兄弟仲良く暮らしているけれど将来に夢や希望はない。それをうすうす気づいているからこそ今を精一杯楽しもうとしている。コンクリートと土砂と狭い海、殺風景な彼らの職場を照らす夕日が印象的な1話目だった。映画は20分ほどの短編6本、それぞれ21世紀を生きる若者たちの日常を切り取り、ちょっとした出会いやハプニングが彼らの人生を変えていく過程を描く。今日は昨日よりましだったのか? 明日は今日よりいい一日になるのか? それはわからない。それでも今日一日を何とか必死で生きている。そんな当たり前のことが瑞々しかった。
親友と柊子との板挟みになったあゆむが、複雑な気持ちを抱えながら柊子と一日を過ごす第2話。あゆむのやさしさは優柔不断の裏返し、己の気持ちに素直になれない彼の繊細さが草食系男子を象徴していた。
3話ではフードデリバリーの青年が中国人美女との人間関係をAIにサポートしてもらう。仕事も私生活もあらゆるシーンでなくてはならないパートナーとなったAIが、生身の人間との恋を橋渡しする未来は確実にやってくるだろう。あと、外国語を学ぶ必要もなくなる。4話は200年前の女の幽霊に取りつかれた板前が “妊娠” する。死者を怖がらず正面から向き合って気持ちを理解してあげれば、幽霊も怖くないとこの作品は教えてくれる。5話はコロナによって分断された日米の恋人たちの葛藤。恋人をシカゴに残し帰国した日本人のノーテンキさは、コロナ禍初期の楽観が暗転する瞬間を鋭く切り取っていた。6話はバス停で出会った男女が東京中をふらついて一夜を明かすという「恋人たちの距離」の焼き直し。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
スタジオ外で撮影された映像はどの作品も躍動感に富み刺激的。ただ、兄弟の絆を描いた1話以外は似た趣向。監督の個性が際立つ映像が見たかった。
監督 SABU/新城毅彦/山下敦弘/森義隆/真利子哲也/久保茂昭
出演 佐野玲於/醍醐虎汰朗/関口メンディー/阿部純子/白濱亜嵐/門脇麦/中務裕太/山田真歩/片寄涼太/藤井武美/小森隼/ルナ
ナンバー 220
オススメ度 ★★*