こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

明け方の若者たち

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誘ってきたのは彼女の方だった。一緒にいるだけでときめきと安らぎを感じた。ふたりで過ごす楽しい時間は永遠に続いてほしかった。物語は、大学生から社会人になる過程で1人の女に振り回された若者の心の彷徨を描く。大手企業から内定をもらい、夢と期待に胸を膨らませていた。ところが入社してみると思い描いていた “将来” とはまったく違う現実が待ち受けていた。働いて賃金をもらうというのは自分を殺して生きること、そう気づいた彼は違和感を募らせていく。一方で、彼女とのラブラブな日々は、会える時間が少なくなったのと収入を得たことでますます濃密さを増していく。同じ音楽が好きで上昇志向も強い似た者同士。だからこそ未来が訪れるのが怖い。そんな繊細な感情を、バスローブを着たままベッドで体を重ねた後に零れ落ちる涙が象徴していた。

ゼミのコンパを抜け出して飲み直した彼と彼女はたちまち意気投合、付き合い始める。卒業・就職と環境は変わるがふたりの仲は順調に推移していく。

就職氷河期で無事正社員になれた彼はいわゆる勝ち組の流れに乗っている。彼女もアパレル関連の仕事に希望を抱いている。社会人になったばかりのころの人生は輝いて見えた。なのに、彼は希望した部署に配属されず、刺激のない日々のなか少しずつすり減っていく。このまま退屈な大人になっていく不安が彼にのしかかっていくのだ。ハンコの押し方から他部署の応援、会議室のセッティングetc. なのに企画の仕事をしていると風俗嬢の前で見えを張る姿が哀しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、ふたりの関係は「花恋」を彷彿させるが、話題になった固有名詞に関しては掘り下げが浅い。また彼らに名前を与えず、観客に「自分ごと」と解釈させる手法もいかにも陳腐だ。破綻する理由も無理にひねり出したような不自然さで、どんでん返しというにはリアリティが薄くてかえって白けた。それでも、彼も彼女も友人たちも、20代の数年を懸命に生きてきたことは確か。明け方の空を見上げる彼の表情が清々しかったのが救いだ。

監督     松本花奈
出演     北村匠海/黒島結菜/井上祐貴/山中崇/楽駆/佐津川愛美/高橋ひとみ/濱田マリ
ナンバー     1
オススメ度     ★★*


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