挫折した夢の残骸に縋り付いている男。平凡だけれど小さな幸せを願う女。誕生日が来ると毎年思い出してしまう、あの頃。物語は、元ダンサーの男とタクシードライバーの女が、彼の誕生日に起きた出来事を振り返り、かけがえのない日々だったことを懐かしむ過程を追う。強烈に愛し合った記憶はないけれど、お互いを尊重できる関係だった。楽しかった日々は短かったけれど、充足感があった。でも、いつもそばにいてくれる安心感甘えてしまった、相手の気持ちも考えないで。傷つけてしまったことへの後悔と思いを素直に言葉にできなかった後悔。もう戻れないと知りながらも、ふと頭によぎる光景。自分は成長したのだろうか。それとももがき続けているだけなのか。そんな問いを投げかける主人公ふたりの過去をたどる姿が切ない。
客を小劇場まで送った葉は建物の中に入る。公演が終わったステージでは、照明係の照生がひとりで踊っていた。葉は照生の踊りを客席から見つめる。
いつもと変わらない朝、観葉植物に水を、飼い猫にえさをやった照生は、公園のベンチで妻を待つ男を尻目に出勤する。葉はコロナ禍の不景気を嘆きつつもハンドルを握る。誕生日なのに照生を祝福してくれる人はいない。もう祝う年でもないと言いながらも、やはり照生は寂しがっている。かつては葉がいた。一緒にいるだけでときめいた。他愛のないことで笑い合えた。映画は、時をさかのぼることで色あせていた日々をきらめかせていく。もう若くないふたりが、まだギリギリ若いと言える年齢だったころ、確かに世界は彩に満ちていた。その対比が人生の残酷さを象徴していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
合コン中にタバコを吸いに出た葉が、路地裏で男に声をかけられ強引に連絡先を交換する。成り行きでその男と寝てしまうと、男は運命だと言ってプロポーズしてくる。いつしか葉はその男と家庭を持っている。出会いなんて案外あっけないもの、男女の縁なんて意外と成り行きでうまくいく。流れに身を任せる人生も意外に悪くないとこの作品は教えてくれる。
監督 松居大悟
出演 池松壮亮/伊藤沙莉/河合優実/成田凌/市川実和子/ 高岡早紀/國村隼/永瀬正敏
ナンバー 32
オススメ度 ★★★*
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