こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ホテルローヤル

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ゴージャスなベッド、広い浴槽、けばけばしい内装etc. そこを訪れる客にとっては非日常の空間、だが家業にしている者にとってはいつもの日常でしかない。映画は、ラブホテルの経営を親から引き継いだ女の心の彷徨を描く。換気ダクトを通じて漏れてくる客室の会話、心身とも裸になった男女は赤裸に本音を吐露する。幸せになれた夫婦、幸せになり損ねたカップル、出入りの業者、そして従業員と両親。狭い人間関係の中で生きていくしかないヒロインは、日々肉体労働をこなしていくうちに自分を見つめなおしていく。セックスする場を提供している彼女がセックスと距離を置いている。それは両親の性的なだらしなさを見てきたからのみならず、己の体にも同じ血が流れていると知っているから。自らを罰するような彼女の暮らしが奥ゆかしい。

大学受験に失敗した雅代は実家の手伝いを始める。労務実務は母が仕切っていて、オーナーである父は浮気しているのかほとんど家に帰ってこない。ある日、母は酒屋の配達人と駆け落ちする。

ラブホの娘と言われるのが不快で、地元を離れたがっていた雅代。結局地元に戻り、地元に縛られる。小さな町では情報はすぐに広まる。ラブホを継いだことが同級生に知れ渡り、それが嫌で雅代は同窓会に出席しない。相変わらず父は役に立たず、パートのおばさんたちが頼り。変化のない毎日で客たちがもたらす “物語” とバイブのセールスマン・宮川との会話だけが彼女の生活に刺激を与える。ここでこのまま朽ち果てていくのかという漠然とした不安がよぎる一方で、特にやりたい仕事もない。そんな、あきらめにも似た雅代の気持ちがリアルかつ繊細に再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ホテルは心中事件で客足が遠のき、父も働けなくなったのを機に雅代は閉館を決意する。今はうらぶれてしまった建物、それでも昔は、若かったころの父と母の夢と希望が詰まっていた。こんなホテルにも人の思いがいっぱいに詰まった過去があると回想するシーンは、人生の美しさに満ちあふれていた。

監督  武正晴
出演  波瑠/松山ケンイチ/余貴美子/原扶貴子/伊藤沙莉/岡山天音/正名僕蔵/内田慈/友近/夏川結衣/安田顕
ナンバー  197
オススメ度  ★★★


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