こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハッチング 孵化

カラスの卵だと思っていた。だがそれは次第に大きくなり、恐竜のような外見の雛が生まれてきた。物語は、一見平和な家庭で暮らす少女が雛を通じて内面の怒りを露わにしていく姿を描く。母は動画配信サイトに夢中で、彼女にカメラを向けられたときだけは理想の家族を演じる。父は温厚で物分かりが良い。生意気な弟はまだまだ幼いところもある。母の期待を一身に受けた少女は笑顔を作らなければならない。そんな時、雛に起きた変異。少女の抑圧された感情と本心を敏感に察知する雛は驚愕の行動に出る。そして1枚ずつはがされていく仮面家族の真実。醜悪だが高度な知性を具えた雛と、美しくも繊細で傷つきやすい少女の感覚と精神がシンクロし一体化していく過程が、切なく哀しく美しくもグロテスクだった。

母の期待に応えようと体操の練習に励むティンヤは、大きな雛を家族に隠して飼っている。ある夜、ティンヤが隣家の犬の遠吠えに眠れずイラついていると、雛が犬の鳴き声を止めてしまう。

雛はティンヤの言葉が理解できるのか、アッリと名乗る。ティンヤが口にしたことだけでなく、ふと頭に浮かんだ邪念を敏感に察知し先回りして処理するようになる。ティンヤが不快に思うものや人を直接的暴力的に排除するのだ。ティンヤはその暴走を止められず、ティンヤのアッリに対する気持ちは少しずつ疎ましいものになっていく。一方で、何事にもアグレッシブな母の浮気を目撃するティンヤ。母は浮気相手の家に泊りがけで行くときにティンヤを誘う。ティンヤが父に問い質すと、“彼女を尊敬している” と父は浮気を容認している。もう、フィンランドでは性差がここまで解消されているのだろうか。ただ、もし男女逆で、愛人の元に泊まりに行く夫を妻が見送るという設定だったら、フェミニストが大騒ぎすると思うのだが。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アッリの行動はティンヤの胸の奥に凝縮された悪意の発露。その間少しずつ獣から進化していくアッリの変貌にはホラーの趣が強く、端正に撮影された映像がより恐怖感を醸し出す。

監督     ハンナ・ベルイホルム
出演     シーリ・ソラリンナ/ソフィア・ヘイッキラ/ヤニ・ボラネン/レイノ・ノルディン
ナンバー     73
オススメ度     ★★★*


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