父は再婚し継母とうまくやっている。だが小さい異母弟のせいで家庭に居場所がない。学校に友人はいるが、特に楽しいこともない。そんな時現れた実の母。彼女はいまだに若く美しく、少女はたちまち夢中になっていく。物語は、借金返済のために仕組んだ誘拐が思わぬ方向に向かい破綻していく過程を描く。元女優だという母は廃劇場に住んでいる。きらびやかな舞台装置と衣装は残されたまま。輝きを取り戻した母に少女は憧れ、失った時間を取り返そうとするかのように行動を共にする。そして知らされた母の真実。本来なら恋や友情・将来への夢に胸を弾ませるべき年ごろなのに、どんよりとした街の空気は少女の心を抑圧しているよう。羽ばたきたいのに羽ばたけない少女の、あきらめにも似た重苦しさが切なかった。
小さな工業都市で高校に通うシュイ・チンは、麺屋で記憶にないはずの実母を見かける。黄色いクルマに乗った母は颯爽としていて、シュイ・チンの日常に一条の光をもたらす。
高校文化祭での出し物の集団ダンスにあまり興味がなかったシュイ・チンだったが、母が講師に招聘されると自分までが人気者になった気分になる。今までとはまったく違うアプローチでチームワークを育てる指導法はユニークで、母はすぐに生徒たちのハートをつかむ。仲の良いクラスメート2人を加え女4人でドライブするシーンは、地方都市でくすぶった人生を送る未来が目に見えている女子高生たちの、旧弊の殻を破って自ら道を切り開いた母への尊敬と憧憬の念にあふれていた。成功した大人は若者にとっては希望であると教えてくれる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ところが、母は借金取りから逃げてきただけだと知ったシュイ・チンは、母に幻滅するどころか金持ちの養子になる話が持ち上がっている親友を誘拐して借金の穴埋めにしようと計画する。短絡的な発想が見破られるのは冒頭で明かされている。経済開放の結果生まれた過酷な競争社会と自己責任、負け組に転落するスピードも速い現代中国の闇がリアルに再現されていた。
監督 シェン・ユー
出演 ワン・チエン/リー・ゲンシー/ホアン・ジュエ
ナンバー 137
オススメ度 ★★★*