焼け焦げた他殺死体、権力と結びついた巨大資本、そして腐敗した役人。物語は、スラム地区再開発のための強制立ち退き現場で起きた転落死事件を捜査する刑事が、中国不動産業界の暗部に切り込んでいく姿を描く。住民運動を力ずくで抑え込み警察まで味方につける実業家、刑事を罠にはめようとする女、さらにマスコミがスキャンダラスに報道する。周囲は敵だらけの状況で孤軍奮闘する刑事は香港に潜伏するが、そこにも魔手は伸びてくる。そしてたどり着いた父の遺恨。断片的な映像はミステリアスな雰囲気を加速させると同時に、刑事が迷い込んだ闇の深さを象徴する。捜査権を持つ刑事に対し公然と反撃を試みる実業家は、この国の民主主義が名ばかりで、権力と結びついた者だけが特権を享受することができると訴える。疾走する登場人物をドローンでとらえるシーンが秀逸だった。
住民暴動の中、この地区の開発責任者・タンが転落死する。担当になったヤンはタンの過去を洗ううちに、タンの妻・リンが不動産王のジャンと深い仲であるという情報をつかむ。
タン、リン、ジャンの3人は古くからの知人で、ジャンの事業拡大と共にタンの地位も上がっていく。台湾人のアユンという女も交えて、4人は急激な経済成長の波に乗り、ジャンは莫大な富を手に入れ他の3人も潤っていく。いかにも日の当たる道を歩きそうなジャンに対し地味なタンはリンを寝取られても強く出られない。アユンも交えて彼らが成り上がる過程は成金趣味でバブルに踊った日本人と変わらない。中国の高度経済成長をトレースするようなジャンの半生は、その後に起きる崩壊をも予感させる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ジャンたちの経歴とヤンが置かれた現在がランダムに展開し時系列を整理する必要があるが、それはパズルを埋めていく感覚にも似て腑に落ちると心地よい。ところが、完成した全体像は人間の欲望と愛憎が複雑に絡み合った醜い現実。アユン失踪事件を追っていたヤンの父の無念を含め、壮大な中国裏現代史を見ているような気分になった。
監督 ロウ・イエ
出演 ジン・ボーラン/ソン・ジア/チン・ハオ/マー・スーチュン/チャン・ソンウェン/ミシェル・チェン/エディソン・チャン
ナンバー 221
オススメ度 ★★★*