こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

PLAN 75

75歳以上の老人に与えられた死ぬ権利。苦痛もなく死後の面倒も見てくれる。もう生きていても仕方がないと思っている人は進んで利用する。無職で年金も少ない人は、まだ死にたくなくても選択せざるを得ない状況に追い込まれていく。物語は、高齢化社会を是正して日本を再生させる唯一の手段の適応を受ける当事者の気持ちに寄り添う。若者たちは老人に人生を搾取されたと怒っている。老人たちはこれ以上世間に迷惑をかけたくないと思っている。一方で、理性では納得していても感情が反発している人々もいる。死後の世界を肯定する宗教の信者が多数派ではない日本ではまだまだ違和感を覚える人もいるはずだが、やはり死ぬ権利は生きる権利と同等に議論を深めるべきだ。もう生きる希望など残っていない人の魂を救済するためにも。

勤め先をクビになったミチは一人暮らしのアパートも退去要請を受け、安楽死を介助するPLAN75の申請を済ませる。その後、もらった支度金の10万円で特上ずしを食べたと相談員に話す。

まだ体は健康で認知症もないのに、後期高齢者というだけで社会から排除されるミチ。同年代の友人は孤独死した。明日は我が身と悟ってもいる。いまや相談員と電話でやり取りする15分だけが他人との接点になっている。誰にも必要とされず誰の役にも立てない。人間としての尊厳を守るためには死ぬしかない。でも、老人の死を推奨する社会には人生を否定されたという不満が残る。そんな老人の複雑な心理を、倍賞千恵子が深いまなざしとしわの刻まれた指先で繊細に演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

こういう制度がなければ若者が絶望するのは理解できる。それでも、消極的にしか賛成できないのは、NOと言いづらい空気を醸成し高齢者に押し付けているから。役所の担当者も外国人介護士も将来自分や自分の両親の順番が来た時を想像し、憂いている。こんな世の中は間違っているのと思いつつもこれしか解決策は思い浮かばない。バブル崩壊以降の停滞で低成長に沈む日本の近未来がリアルに感じられる作品だった。

監督     早川千絵
出演     倍賞千恵子/磯村勇斗/たかお鷹/河合優実/ステファニー・アリアン
ナンバー     112
オススメ度     ★★★★


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