小麦粉を捏ねて型に入れ、きれいに整えて、丹精込めて焼き上げた菓子。料理人にとってそれは絶対の自信作なのに、貴族たちからは嘲笑され侮辱され謝罪を求められる。物語は、革命の足音が聞こえ始めたフランス、公爵の専属料理人だった男が街道の旅籠でレストランを開業する姿を描く。まだカネを払って外食する習慣のない時代、料理を芸術の域にまで高めた彼は、庶民にも手ごろな値段で上質な料理を味わってもらおうとする。進取の気性に富んだ息子と訳アリ中年女の手伝いもあって、彼らのアイデアは徐々に周囲に浸透していく。地元でとれた野菜や卵、野生のウサギやカモといった食材を丁寧に処理し時間をかけて火を通す過程は、よだれがたまるほど。貴族と平民の経済的格差のみならず圧倒的なまでの身分差が講評シーンに凝縮されていた。
じゃがいもとトリュフをメニューに加えたせいで公爵家をクビになったマンスロンは実家に戻る。押しかけ弟子として現れたルイーズに料理を教えるうちに、料理への意欲を取り戻す。
手がきれいなうえ立ち居振る舞いに気品があるルイーズは高級娼婦だったという。彼女は、マンスロンの期待に応えようとよく働く上、味覚のセンスもいい。若くはないが結構美人でもある。それでも、マンスロンがセクハラに及ぶと毅然とした態度で拒絶する。客からも、女だというだけでからかわれたりもするが、決して媚びたりはしない。ルイーズのプライドの高さが、マンスロンや息子のレストラン経営への意欲を刺激するあたり、女に尊敬されたいと願う男の気持ちがリアルに再現されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
評判を耳にした公爵が料理を食べにくるというので、マンスロンは徹夜で準備する。ところが、ひと悶着あった後も事件が重なり、ルイーズはマンスロンの元を去る。そして入念に計画された食事会。王侯貴族の専横に庶民階級がため込んだ怒りが沸点に達する。扇動者などいらない、市民革命は小さなきっかけで始まり、大きなうねりとなってこそ成功すると、この作品は当時の空気を伝えてくれる。
監督 エリック・ベナール
出演 グレゴリー・ガドゥボワ/イザベル・カレ/バンジャマン・ラベルネ/ギョーム・デュ・トンケデック
ナンバー 165
オススメ度 ★★★