こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

地下室のヘンな穴 

地下室の穴に入ると、なぜか2階の部屋に出る。いつの間にか12時間経っている。肉体は3日若返っているという。物語は、奇妙な構造を持つ新居に引っ越した夫婦が直面する危機を描く。しわやたるみのない顔とメリハリのあるボディを取り戻せば、モデルになるという若いころの夢をかなえられるかもしれない。そう確信した妻は、毎日のように穴を通過しては美しくなっていく。一方の夫は、そのたびに12時間放っておかれ内心穏やかではない。さらに仕事でのトラブルも抱えいら立ちは募っていく。神の摂理に逆らうような欲望は封印すべきか、それとも手にした奇跡は最大限活用すべきか。夫婦は逆の道を選ぶが、それでもなるべくお互い相手の意見を尊重しようとするところが、個人主義の発達したフランス人らしかった。

アランとマリーはローンを組んで郊外の瀟洒な一軒家を買う。マリーはさっそく穴の効果を実感、張りのある肉体と美貌を取り戻したいと願うが、アランは彼女を冷めた目で見ている。

アランの友人で社長でもあるジェラールは、引っ越し祝いの席で電子ペニスを装着したと打ち明ける。彼もまた滾るようなパワーを切望したのだろう。魅力的な妻・ジャンヌの期待にも応えたい。経済的には恵まれていても性的能力は下がるばかりの年齢になって、彼もまた “こんなはずじゃなかった” と自身の老いを呪い若さの魔力を追う。マリーとジェラール、男女の違いはあっても肉体的・精神的な健全さは人類共有の願望でもある。だがそれが、果たして彼らの人生に幸せをもたらすのかとこの作品は疑問を投げかける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

科学的は説明できない穴に救いを求めたマリーとテクノロジーを頼ったジェラール。当然2人は代償を払うことになるが、彼らが後悔しているようには見えない。2人とも50代と推察される。ならばこのまま老いを受け入れて衰えていくばかりの未来よりも、一瞬でも、もう一度輝かしい時間を取り戻したいと思うのは当然だろう。魔法の穴はさておき、肉体のデジタル化は可能な気がする。

監督     カンタン・デュピュー
出演     アラン・シャバ/レア・ドリュッケール/ブノワ・マジメル/アナイス・ドゥムースティエ
ナンバー     166
オススメ度     ★★★


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