こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛する人に伝える言葉

ステージ4のがんと宣告された。現実を受け入れられない。つい周囲にとげとげしい態度をとってしまう。物語は、余命1年となった男が人生を整理していく過程を描く。もうアラフォーなのに母がべったりとくっついている。きっと母は女手一つで息子を育てたのだろう。半生をかけて愛してやまなかった最愛の息子に死が近づいても、うろたえる息子を気丈に支えている。息子もまた母の愛にどっぷりと浸り、他の女には好意を抱いても心身を委ねる気持ちにはならない。母と息子という切り離しがたい魂の絆ががん闘病を背景に浮き彫りにされる過程は、個人主義が徹底したフランスとは思えない濃厚な母子関係を提示する。こんなマザコン男が学生相手に演劇論を語るが、母への思いが感情をリアルに再現する技術を高めたのだろうか。

医師の提案で、できる限りの延命治療を受け入れたバンジャマンは、母・クリスタルに付き添われて通院する日々を送る。一方で、演劇学生たちの男女間愛情表現実習を評価する。

病状は悪化し、医師は思い残すことがないようにと助言する。バンジャマンは元恋人との間にできた子供のことを思う。クリスタルがひどい言葉を彼女に浴びせ別れさせた。それは、クリスタルが元恋人に嫉妬したから。母の息子に対する過大な思い。それが、同じくシングルマザーとしてひとり息子を育てた元恋人にも芽生えている。思わぬ皮肉に、人間の業の深さを知らされた。結局、最期までうじうじと悩み、なかなか素直な気持ちを口に出さないバンジャマン。感動を押し付ける展開にはせず、あくまで一人の男の死とその背景を冷静に見つめる視点が映像に奥行きを生んでいた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

恋愛感情がもつれた男女の演技指導のシーンや女性看護師がバンジャマンにした特別な行為は、大騒ぎして注目されたいだけの米国の進歩派やそれを無批判に受け入れる日本の “リベラル” がセクハラと訴えかねない。性愛はあくまで理性に基づいた個人的問題と位置付けるフランス人の合理的で寛容な価値観をもっと見習うべきではないだろうか。

監督     エマニュエル・ベルコ
出演     カトリーヌ・ドヌーブ/ブノワ・マジメル/セシル・ドゥ・フランス/ガブリエル・サラ
ナンバー     190
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://hark3.com/aisuruhito/#modal