こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

郊外の鳥たち 

沈下する地盤。傾くビル。打ち捨てられた教室と住宅。その土地に染み付いた記憶は男を過去にいざなう。物語は、再開発地域の測量に訪れた青年が、廃墟で見つけた絵日記の世界を追想する姿を描く。友情だけではない、少しずつ恋も芽生え始めていた。学校の近くでは森や川など豊かな自然が楽しめた。だが、地区全体の立ち退きが決まると、ひとりまたひとりと友達が消えていく。あれほど仲が良かったのに。無邪気に遊んで心の中をさらけ出せたのに。もう友人たちの笑顔は潜在意識の中にしか存在しない。ずっと昔に忘れていた。時間が自分を変えた。それでも、心の奥に残っていたかけがえのない日々。毎日が刺激的だった少年時代、その思い出を過度に美化したり感情を押し付けたりもしない。淡々と再現された映像は心地よかった。

無人化した地方都市の地質調査をするハオは、小学校の教室で自分と同じ名の少年が書いたノートを見つける。いつしかハオは眠っている間に少年の記録を追体験し始める。

性別を意識せず遊びまわった小学生のころ。もう高学年なのだろう、男と女の違いは理解できている。遊びまわった後、男子も女子も全員がお互いにハグしてから家に帰る、そんなシーンに同じ地域に育った彼らのつながりの深さが凝縮されていた。夏休みが終わり学校が始まるあたりからクラスメートの欠席が目立つようになるが、それが引っ越しによるものだとはハオは気づかない。街を囲む塀を超えた後で道に迷うが、その不安と寂しさに、約束された未来が信じられない当時の中国人の思いが象徴されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

少年とハオが同一人物とは特定されていない。しかし、同じような経験をした都市部の中国人がたくさんいるのだろう。急激な近代化の波にのみこまれた庶民の暮らし。ただなすすべもなく古いモノや価値観はうち捨てられていく。もちろん十分な補償はされたはずだが、強制的に故郷を奪われた感は否めない。静かなノスタルジーは、時代の流れの翻弄された市民の政府に対するささやかな抵抗なのだ。

監督     チウ・ション
出演     メイソン・リー/ホアン・ルー/ゴン・ズーハン/ドン・ジン
ナンバー     3
オススメ度     ★★★


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