こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

生きててごめんなさい

効率的に考えたり動いたりできず、すぐに感情を表出させる。何をやってもうまくいかず周囲の人をいら立たせてしまう。物語は、生活能力の著しく低い女が居場所を見つける過程を追う。不器用すぎて放っておけない。よく見るとすっぴんでもかわいい顔をしている。ぐ~たらしているけれど甘え上手。そんな彼女を拾った男は、目標に向かって努力し続けているけれど現実の壁に押しつぶされそうになっている。対照的なふたりは同棲生活の中で、お互いに相手を理解しようとはせず溝を深めていくばかり。彼らの、大好きとか愛してるとかではなく、「なんとなく一緒にいる感」がいかにも現代的だ。“夢も仕事もない人はダメ人間か” という問いに、“生きていればいい” と答える彼女の、うだつの上がらない現状を否定しない姿が印象的だった。

居酒屋をクビになった莉奈と暮らし始めた修一。打ち合わせに使う資料を莉奈に届けてもらうと、うるさ型の著者・西川に莉奈は気に入られ、そのまま修一がいる編集部で働き始める。

あらゆる事務仕事が不得意でそもそも勤労意欲も低い莉奈だったが、その頑張らない価値観が西川の心をつかむ。莉奈は殺処分予定の犬をかわいそうだからとアパートに引き取り、結局何もできない。尻拭いするのは修一。なのに、いつしか担当の修一よりも莉奈は西川に深く食い込んでいる。西川と反りが合わない修一はそれが気に食わないが、西川の機嫌がいいので我慢をかさね、むしろ小説の新人賞にのめりこんでしまう。このあたりの力関係逆転劇は、卑小なプライドなどなんの役にも立たないと教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もちろん莉奈は自分が競争社会の不適合者であることは自覚している。その上で、素直な気持ちをSNSで吐露し、多くの共感を得てフォロワーを増やしていく。手書き原稿にこだわった挙句作品が他人の目には触れなかった修一に対し、スマホで綴った愚痴が大勢に読まれる莉奈。報われなかった努力と瓢箪から駒、向上心を謳った実用書に惑わされる人生は不幸だという主張は心地よかった。

監督     山口健
出演     黒羽麻璃央/穂志もえか/松井玲奈/安井順平/冨手麻妙/安藤聖
ナンバー     22
オススメ度     ★★★*


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