こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

FALL フォール

梯子が外れた。ロープの長さは足りない。スマホは圏外。ドローンは電池残量ゼロ。物語は、地上600メートルの鉄塔頂上に取り残された女たちのサバイバルを描く。冒険系ユーチューバーの女は絶体絶命の危機にもかかわらず楽観的で、自分たちが絶対に助かると信じている。恋人の死から立ち直れていない女は悲観的になり、つい弱音を吐いてしまう。遠くから見た時は荒野にたたずむ孤高のシンボル。足元から見上げると天に昇る階段。最上部の足場から見下ろせば地獄に通じる一本道。彼女たちのポジションで塔はさまざまな表情を見せる。だが、はるか地平線まで続く絶景を見渡すと、世界を征服したような、すべてを手に入れたような気分になる。そんな傲慢をあざ笑うかのように舞うハゲワシが、彼女たちの絶望を象徴していた。

恋人の滑落死で落ち込んでいたベッキーは、ハンターに誘われて鉄塔登りに参加する。ほとんど人がいない街の郊外に立つ廃TV塔は、錆で腐食しビスやネジも緩んでいた。

命がけのスリルが楽しくて仕方がないハンターは、時にふざけたり片手でぶら下がったりするなど、バズりそうな動画撮影に余念がない。喪失感に打ちひしがれているベッキーを励まそうとカラ元気を出しているようでもあるが、そのノリは迷惑ユーチューバーのよう。雲一つない空、樹木も生えていない大地、乾燥した空気と乱気流。あくまで荒涼とした自然と直立した細長い棒にしか見えない塔をコントラストも鮮やかにとらえた映像は、甘ったれた感傷が入り込む余地がない分、美しく刺激的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

SOSは届かない。そのまま3度夜と朝を迎えるハンターとベッキー。水は何とか手に入れるが食料はなく、体力は消耗していく。このまま衰弱死するよりはと、さまざまなアイデアを試すが、もはや生還の望みは薄く、幻覚に襲われる。それでも、最後まであきらめないのは米国人に叩き込まれたスピリット。ただ、乾燥地帯で標高も高く風にさらされた状態では体感温度が非常に低いはず。寒さとの闘いもあったのではないだろうか。

監督     スコット・マン
出演     グレイス・キャロライン・カリー/バージニア・ガードナー/メイソン・グッディング/ジェフリー・ディーン・モーガン
ナンバー     23
オススメ度     ★★★


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