こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シャイロックの子供たち

借りたカネを返さないやつのほうが悪い。だが、きちんと返しても許されない借金がある。物語は、大手銀行の小さな支店で起きた巨額不正融資をめぐる人間模様を描く。エリート行員は担当した新規の客に弱みを握られていて断れない。書類は完璧で会社の体裁も整っている。しばらくの間カネを口座間で動かすだけで甘い汁を吸えるという誘惑に抗えずエリート行員は案件を通してしまう。そんな時に起きた現金紛失。大事件なのに、なぜか翌日にはもみ消されている。一線を越えずに踏ん張っている者、一度一線を越えたけれど正しい道に戻ろうとする者、そして一線を越えた以上後戻りできないと突っ走る者。様々な人間の思惑が複雑に絡み合う展開は、「信用」を看板に商売をしている輩ほど信用してはならないと訴える。

不動産業者に騙されて10億円の融資を焦げ付かせてしまった滝野は支店長の九条から全責任を被せられる。行員の西木は消えた100万円の行方を追ううちに、九条を疑い始める。

お調子者の窓際族的な存在だった西木だが、実は観察眼も鋭く実行力もある。独自に手に入れた証拠を上司には報告せず、信頼できる部下を集め調査を開始する。その過程で明らかになる滝野と不動産業者の過去。さらには不正融資そのものの全体像まで解き明かしてしまう。その西木も闇金への返済に四苦八苦している。目の前で多額の現金が動いている職場、だれもが出来心と葛藤している。清廉潔白な人格より、むしろ清濁併せ呑むくらいの器量がなければ銀行員は務まらないと西木の活躍は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、悪事に手を染めた男女も含め、緊張感に欠けているのが気になった。現金入り紙袋を放置したり、床に落ちた名入り帯封に気づかなかったり、拾った帯封を他人の鞄に入れたり、振込用紙のコピーを丸めてごみ箱に捨てたり、幹部が同じ日にカネを引き出したり。テンパっていたのかもしれないが、小学生が侵すようなミスはいただけない。その点西木の作戦は完成度が高い。本当の悪党は偽装もうまいのだ。

監督     本木克英
出演     阿部サダヲ/上戸彩/玉森裕太/柳葉敏郎/杉本哲太/佐藤隆太/渡辺いっけい/忍成修吾/柄本明/橋爪功/佐々木蔵之介
ナンバー     32
オススメ度     ★★*


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