こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

The Son 息子

学校をさぼっているのにその理由を話そうとはしない。理詰めに問うと口を閉ざしてしまう。両親の前では明るく振舞っているのに心の中は決して見せない。物語は、うつ病になった息子を立ち直らせようと奮闘する父と母の葛藤を追う。仕事を言い訳に家庭を顧みなかったばかりか不倫相手と結婚してしまった父。誰よりも息子を心配しているが手に負えなくなった母。そして息子は父の不在と父に見捨てられた寂しさから人生に価値を見出せない。何もやる気が起こらない。何をしても楽しめない。でも、心配をかけたくないから登校しているふりはする。そんな息子の居場所のなさがリアルに再現されていた。まあ、20世紀なら、“なに甘ったれてんねん、ボケ!” と一発殴ったら解決するようなシチュエーションだが。

ベスと生まれたばかりの赤ちゃんと暮らすピーターの部屋を前妻のケイトが訪ねてくる。ケイトは息子のニコラスの様子がおかしいと相談、ピーターは一時的にニコラスを預かる。

何を聞いてもあいまいな答えが返ってくる。政治家とかかわるほどの弁護士であるピーターは筋の通らない話を好まず、優しく接しているつもりでもつい詰問調になる。それでも、いつも気にかけていることが伝わるとニコラスの態度は軟化する。彼がふと口にする “人生に潰されそうだ” という本音は、科学文明が発展し電子機器で常時他人とつながれるようになった時代だからこそ、人と人は直接触れ合わなければ自分の存在すら実感できないという現実を象徴する。自己肯定感を失った子供にはそっと寄り添ってやるのが一番効果的なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ピーターが出張のついでに父親を訪ねる。父親もまた仕事漬けで家にはほとんどいなかった。それでも自分は克服したと自負するピーターは、なぜニコラスにはできなのかと歯がゆい。そして父親にその薄っぺらなプライドを見透かされ強烈な皮肉を言われる。人間の弱さを認め重圧から解放してやるのは大切だが、やはりニコラスは甘やかされすぎだ。幼いころは泳ぐ勇気があったのだから。

監督     フロリアン・ゼレール
出演     ヒュー・ジャックマン/ローラ・ダーン/バネッサ・カービー/ゼン・マクグラス/アンソニー・ホプキンス
ナンバー     52
オススメ度     ★★*


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