こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

生きる LIVING

陳情はたらいまわしでだれも責任を取りたがらない。書類の山に埋もれて忙しいふりをしているだけ。非効率的なお役所仕事にどっぷりとつかった男は、若いOLにゾンビとあだ名をつけられている。物語は、死期を悟った小役人が一念発起して生きた証を残そうともがく姿を描く。定年までつつがなく過ごすつもりだった。だが、突然の余命宣告を受けた。今さら人生を楽しもうとしても適切な金の使い方がわからない。息子夫婦が愛想よくしてくれるのは住宅資金をあてにしているから。残されたわずかな時間、自分の命を納得して終わらせるために懸命に働き始めた男に、周囲の誰もが驚く。黒澤の名作を忠実になぞった展開は先が読めるが、それでも主人公が己の足跡を刻もうとする過程は、強く願い行動を起こせば少しは世界を変えられると訴える。

市民課の課長・ウィリアムズはいつも鹿爪らしい顔で書類に目を通しているだけで、部下ともども席から動きたがらない。ある日、医師からガンと診断されると無断欠勤する。

カフェに転職した若い女子職員・ハリスと鉢合わせしたウィリアムズは、彼女と一日デートをする。食事してゲームして酒を飲む程度のことだが、堅物で通してきたウィリアムズには新鮮な体験。さらに海辺の町で出会った劇作家崩れの男と夜の街で派手に散財する。なのにウィリアムズの心の空白は大きくなるばかり。公務員として本当に生きたかった人生とは何か。それを思い出して土砂降りの雨の中を踏み出すシーンは、なすべきことを見つけた人間の不退転の決意が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、スクリーンのアスペクト比がスタンダードサイズなのが気になった。1950年代の雰囲気を再現しようとしているのだが、少なくとも現代の映画館ならではの体験をさせてほしかった。派手なアクションで臨場感を楽しむ類の作品ではないのから、これでは最初から映画館ではなく配信で見てくれと言っているようなもの。映画はスマホで消費される “コンテンツ” ではなく、人の感情を刺激する “アート” であってほしい。

監督     オリバー・ハーマナス
出演     ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ/トム・バーク
ナンバー     57
オススメ度     ★★★*


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