売れないマジシャンが場末のペットショップで出会ったのは、二本足で立って歌うワニ。言葉はしゃべれないけれど歌で気持ちを表現するワニは類まれなる美声を持っている。物語は、歌うワニを見つけた孤独な少年が、両親と共に様々な葛藤を乗り越えていく姿を描く。誰にも相手にされず、ネットで友達のつくり方を検索しても分かり切ったことしか表示されない。だが、心躍る冒険を体験させてくれたワニとはすぐに気持ちを通わせるようになる。さらにワニと遭遇した少年の母が、驚き脅え敵意をむき出しにして警戒していたのに、ワニが一曲歌うと180度態度を転換、常識やルーティンにこだわった考え方を捨てジャンクフードに舌鼓を打つ。変わろうと思っているのに変われない人は、誰かが背中を押してくれるのを待っている。そんな人々を前向きにさせる「歌の力」が素晴らしい。
ステージで歌えず屋根裏部屋に放置されたライルは、引っ越してきたジョシュと知り合い親友になる。刺激に満ちたライルとの日々のおかげで、内気だったジョシュは積極的になっていく。
入館許可証を発行してもらえないパフォーマー・ヘクターが劇場の通用口から忍び込み、キッチンや通路をかいくぐり何重ものセキュリティを破った上でステージに立つ冒頭のシーンは、うさん臭さを発散させる彼を流麗なカメラワークで追い、いきなりマジカルな世界にいざなってくれる。ステージでのショーマンシップのみならず、軽やかなステップのダンスまで披露するハビエル・バルデムの芸達者ぶりは、思わず身を乗り出してしまうほど楽しい高揚感にあふれていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ライルのおかげでジョシュ一家の日常は活気が戻り、両親も生まれ変わったように人生に向き合っていく。ところが戻ってきたヘクターがライルを再びステージに立たせようをしたことから、運命は転変。極度の緊張で客の前で声が出なくなってしまうライルの、ヘクターへの恩返しはしたいけれど人前で歌いたくないという複雑な感情が、目の動きでわかりやすく表現されていた。
監督 ウィル・スペック/ジョシュ・ゴードン
出演 ハビエル・バルデム/コンスタンス・ウー/ショーン・メンデス/ウィンズロウ・フェグリー/スクート・マクネイリー/ブレット・ゲルマン
ナンバー 55
オススメ度 ★★★*