こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイド バイ サイド 隣にいる人

生きている人間に寄り添う霊は無言のまま何かを訴えている。その思いを受け止めてやるだけで、とり憑かれた人は精神的な重しが取れ体の不調も改善していく。物語は、霊感を持つ青年が、さまざまな人々が抱える苦痛と霊の苦悩を癒していく過程で、自らの過去と向き合う姿を描く。彼はほとんど感情を表に出さない。お礼を言われたり親切にされたりした時だけごく控えめに口元を緩める。かといって深い喪失感に苛まれているわけではなく、他人の悲しみに精神を蝕ばまれているわけでもない。いったい何が彼から喜怒哀楽を奪ったのか。生死を問わず他人の心の声が聞こえる重圧に押しつぶされそうになっているだけなのか。曇天からこぼれた陽だまりが山の斜面を下る場面は、人生を導いてくれる光を探す主人公の願いを象徴していた。

いつも金髪男の霊を従えている未山は、頼まれごとは断れない優しい性格。ある日、恋人・詩織の娘・美々が金髪男のMVをネットで見つける。未山は金髪男霊の本体・草鹿に会いに行く。

草鹿は未山の高校時代の後輩で、未山の元恋人・莉子に未山を引き合わせる。未山は妊娠している莉子を引き取り、自分が暮らしている土蔵の2階に住まわせる。莉子はどうやらアーティストのようで、抽象的作品を製作している。一方、未山は詩織母娘との関係も維持し、そのうち莉子は詩織のアパートに転がり込み女3人男1人の奇妙な共同生活が始まる。計算されたライティングで紡ぎだされた室内のシーンは端正で、低く垂れこめた雲や川のせせらぎ、初夏の陽光に満ちた緑豊かな屋外シーンは自然と生命の息吹を感じさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、伏線もオチもなく、思い付いたイメージを羅列しただけのシークエンスの連続は退屈の極み。変化に乏しい長回しのショットにはあくびが出た。余白や余韻を持たせたというより、登場人物のキャラクター等、表現すべきディテールがなかったのではないかと訝ってしまう。こんな坂口健太郎をファンは見たいと思うのだろうか。まったく共感ポイントのない作品だった。

監督     伊藤ちひろ
出演     坂口健太郎/齋藤飛鳥/浅香航大/磯村アメリ/市川実日子
ナンバー     71
オススメ度     ★★


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