こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

帰れない山 

遠い空に連なる稜線、平たい石を積み上げて作った小屋、岩だらけの丘、山肌に張り付いた氷河、雪解けの雫が集まった川、透明な水をたたえた小さな湖。それらを都会の人間は自然と呼ぶが地元の人間にとっては生活の場に過ぎない。物語は、大都市から来た少年と牧畜業の少年の長年にわたる友情を描く。都会の少年は父親が敷いたレールが気に食わず回り道をする。山の少年はそこ以外で生きる術を持たない。多様な選択肢に迷いながら己の道を見つけるか、決められた運命の中で人生を模索するか。2人の対照的な生き方は、壮大な山々と小さな山小屋の中でシンクロし、同じ価値観を愛する者同士の理解と共感で満たされていく。肉体労働と自給自足の中で、人間らしい生活とは何かを彼らの背中は教えてくれる。

山麓の村で夏を過ごすピエトロは地元のブルーノと知り合い遊びまわる。十数年後、父の葬儀で村に行ったピエトロはブルーノと再会、廃墟となった山小屋の再建を始める。

父と仲たがいして放浪生活を送っていたピエトロにとって、ブルーノとの会話も山での滞在も久しぶりの感覚でなにもかもが新鮮に感じられる。住めるようになった山小屋で夏を過ごすうちに、これまでの自分を見直し山での時間を増やしていく。特に環境が似通ったヒマラヤ山麓の村で過ごすうちに、文明の波に飲み込まれそうになりながらもギリギリのところで踏みとどまっている人々と交流を深めていく。一方でブルーノは都会から来た女と結婚、牧畜業を近代化しようとする妻の手腕に驚きながらも変化は望まない。もはや現代では貨幣経済とは無縁ではいられないという現実がブルーノを追い詰めていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

教育を受けたピエトロは時代の変化に対してそれなりに順応できるが、ずっと山の民だったブルーノにはカネの計算はできない。だが、本人の意思に反してブルーノを学校に通わせればよかったのかと言えば、それも善意の押しつけでしかない。そんな人間の迷いなど意に介さない山々の神々しさが印象的だった。

監督     フェリックス・バン・ヒュルーニンゲン/シャルロッテ・ファンデルメールシュ
出演     ルカ・マリネッリ/アレッサンドロ・ボルギ/フィリッポ・ティーミ/エレナ・リエッティ/クリスティアーノ・サッセッラ/ルーポ・バルビエロ/エリザベッタ・マッズッロ/スラクシャ・パンタ
ナンバー     86
オススメ度     ★★★★


↓公式サイト↓
https://www.cetera.co.jp/theeightmountains/