こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

水は海に向かって流れる

歓迎の夕食は高級肉をふんだんに使った牛丼。でも作ってくれた彼女は不愛想な態度と表情を崩さない。物語は、親戚が住むシェアハウスに引っ越した少年がねじれた関係の年上女とかかわって成長していく姿を描く。彼女がよそよそしいのは自分の父に原因がある。本当は優しい人なのに孤高を気取っている。それでも少年のまっすぐな気持ちを受け止めるうちに心の壁を少しずつ低くしていく。深いトラウマゆえに恋に憶病になったOLを広瀬すずが笑顔を封印してクールに演じる。同居人同士が適切な距離を保ちながらも個人的なトラブルには親身になって介入してくる。まるで仲の良い家族のような思いやりに満ちた空間は、個人主義と誰かとつながっていたい願望がファンタジーのようなバランスを保っていた。

叔父・茂道が暮らす古民家に住み始めた直達は、先輩同居人・千紗の母が、直達の父・達夫とW不倫をしていたと知る。その後、達夫がシェアハウスを訪れると千紗と鉢合わせする。

達夫は千紗に頭を下げるが千紗の怒りは収まらない。破局後に元の家庭に戻った達夫と、母を追い出した千紗。千紗は自分たちの家庭を壊した男がのうのうと生きているのが許せない。必然的に千紗は直達に対しても冷淡になる。一方で直達は己を罰しようと恋愛断ちを宣言し、クラスメートの美少女との仲をこじらせる。このあたり、自分のことで頭がいっぱいで、正しいことをしているつもりでもどこかで他人を傷つけてしまう直達の未熟さが、共感たっぷりに再現されていた。ユーモラスな中に圧倒的な緊張感をはらんだ「寝取った男」と「寝取られた男」のツーショットは、それでも人間の善良さを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

達夫が探した千紗の母の居所を、千紗と直達は訪ねていく。母は新しい家庭を築き女の子までいる。W不倫の当事者はもうみんな次の段階に進んでいるのに、千紗の時間だけが止まっている。それを更新できるのは直達だけ。前向きに生きる大切さを不器用ながら必死に訴える直達の、まっすぐな視線が印象的だった。

監督     前田哲
出演     広瀬すず/大西利空/高良健吾/戸塚純貴/當真あみ/勝村政信/北村有起哉/坂井真紀/生瀬勝久
ナンバー     56
オススメ度     ★★★*


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