こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

渇水

哀願空しく水を止められる滞納者の冷めた目で見つめられていると、元栓を閉めるたびに心の一部が欠けていく。日常生活で一番大切なライフラインを奪う、それは「社会の脱落者」の烙印を押すに等しい。物語は、停水執行官と育児放棄された姉妹の交流を描く。無職の母は体を売ったカネを与えた後はほとんど家に帰ってこない。小さな妹の面倒を見ながらなんとか一日を過ごしている姉はひとりで問題を抱え込み、大人を頼ろうとはしない。そんな家庭でさえ、踏み倒すと職務を実行しなければならない。本当は面倒を見てやりたい。だが、一度始めるときりがない。一方で、姉妹も母も公的扶助を受けることを嫌がり、他人の干渉を嫌う。自己評価は低いのにプライドは高い貧困層の、どうしようもないほど行き詰った状況が息詰まるほどリアルに再現されていた。

水道局の岩切は後輩の木田と共に水道料金の徴収と停水のために未納家庭を訪問する日々。ある日、小学生の恵子と久美子が住む住宅の停水を執行しようとする。

うだるような暑さが続く夏、雨は一滴も降らず給水制限が実施されている。市営プールの水は抜かれ、市民にも節水が呼びかけられている。突然出奔した父は航海中と母は言う。幼い久美子は信じているが、察しのいい恵子は帰ってこないと知っている。なにより、おめかしして出かける母がどうやってカネを稼いでいるかを薄々感づいている。だからこそ親切心を装って接近してくる大人を信用しない。それでも恵子は、止める前にありったけの容器に水を貯めておけという岩切の合法的な最大限の好意は受け入れる。あくまで大人に甘えようとしない恵子の、精一杯のやせ我慢が切なくも哀しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて公園の水道も止められる。恵子は万引きに手を染め、家庭の水道から水を盗む。どうして幼い姉妹がそこまで追い詰められなければならないのか。母は無責任でいられるのか。彼女たちの苦悩を理解し、人生を棒に振ってまで共感しようとした岩切の無謀な決断は、大いなるカタルシスを味あわせてくれる。

監督     高橋正弥
出演     生田斗真/門脇麦/磯村勇斗/山崎七海/柚穂/柴田理恵/尾野真千子
ナンバー     103
オススメ度     ★★★*


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