こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

苦い涙

狂おしいほど愛おしい。ひとり占めしたいのに妻がいる。どんなわがままも許してきたのに、ちょっと拘束すると横を向く。物語は、そんな若者に恋をした中年映画監督の苦悩と焦燥と嫉妬を描く。人気女優に紹介された彼は、繊細にして奔放。新たなインスピレーションがなかなか湧いてこない監督のクリエイティビティを刺激する。ベッドに招き入れ、同じ部屋で暮らし、寝食を共にするほど、監督の若者に対する思いは過熱する。その情熱は彼が去った後も、時が経つほどに手に負えなくなっていく。叶わぬ願いさえフィルムに昇華しようとするアーティストの執念は常人の価値観などあっさりと超越していくのだ。そして彼らの言動を一部始終記憶に焼き付けている付け人の皮肉な視線。70歳に手が届くイザベル・アジャーニの驚異的な美魔女ぶりには目を見張った。

アミールに一目ぼれしたピーターは、彼を自宅に住まわせる。アミールを自作に起用すると新作は大成功、アミールも雑誌で特集が組まれるほど注目されるが、ピーターは複雑な気持ちになる。

もともとピーターとの仲も成り行き任せだったアミールは、その生活に執着はない。だからこそ、いつ失うかもしれないアミールとの幸せをピーターは手放したくない。ピーターとの生活に息苦しさを覚え始めていたアミールはあえてピーターの心を乱すような言葉を口にする。ピーターの気持ちを試すアミール、アミールが嘘をついているとわかっているからこそ腹立たしいピーター。延々と続くふたりの痴話げんかは、理性や常識よりも感情や感覚を優先させて生きる男たちの精神的な幼さをリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

付け人のカールはピーターのために脚本を書いているが、いつもダメ出しされる。だが、ピーターにこき使われているようで本当はカールの方がピーターを操っているのではないだろうか。ピーターが口にする言葉はすべてカールの本心、ピーターを観察することで自らの脚本に奥行きが出る。だからこそ、分別をわきまえたピーターには失望したのだ。

監督     フランソワ・オゾン
出演     ドゥニ・メノーシェ/イザベル・アジャーニ/ハリル・ガルビア/ステファン・クレポン/ハンナ・シグラ/アマント・オーディアール
ナンバー     104
オススメ度     ★★*


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