こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒトラーのための虐殺会議

全員銃殺にしていたら488日かかる。ガス室で処理したらもっと効率的に “劣等民族” を欧州から駆除できる。男たちは抹殺の対象となった人々を個々の人間としてではなく、ひたすら統計上の数字としてとらえている。物語は、ユダヤ人問題の最終的解決策を話し合うために集まった親衛隊と官僚たちの討議を再現する。ポーランドは限界に達している。バルト三国では比較的速やかに進んだ。ドイツ国内では不安が広がっている。一方で優秀な労働力を選別しなければならない。そして最も紛糾したのはユダヤ人の定義。ユダヤ人との “混血” を逮捕すれば社会が成り立たない。それら諸問題を棚上げにし、強硬派はひたすら総統の意にかなう結論に導こうとする。こんな狂気の沙汰が民主的な合議に見える、思想統制がこれほど人間の理性を蝕むものかと震撼した。

1942年、ヴァン湖畔の別荘でドイツ政府高官と親衛隊幹部が集う。ヒトラーの勅命を受けたハイドリッヒは、ユダヤ人を列車で東方に運び、ガス室で処理する案を通そうとする。

東部各方面の責任者は既得権益を守りたいけれど、無理はしたくない。内務省法務省の次官は法的な問題つまり自分たちのメンツを重視して慎重論に走る。「解決」の方針は決まっている。ただ遂行にあたり、名誉は欲しいが自分たちの負担は軽くしたい者ばかり。射殺よりガス室送りのほうが「人道的」という議論がなされるが、それが当初ユダヤ人に対しての配慮だったのがドイツ兵のトラウマ予防にすり替わっているあたり、ここで描かれる人間の愚かさはもはや喜劇的としか言いようがない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

上官の質問に理路整然と数字を並べ、自身の計画の有効性に説得力を持たせるアイヒマン。戦後の裁判で証言したように、彼は作業効率向上が使命と心得ている。会議では物おじせず持論を展開し、将官・次官クラスを納得させる。その冷徹さと仕事に対する情熱、映画の元ネタになった議事録がアイヒマンの管轄下で作成されたことを差し引いても、彼が出席者の中では図抜けて優秀だったに違いない。

監督     マッティ・ゲショネック
出演     フィリップ・ホフマイヤー/ヨハネス・アルマイヤー/マキシミリアン・ブリュックナー/マティアス・ブントシュー/ジェイコブ・ディール/リリー・フィクナー/ゴーデハート・ギーズ
ナンバー     12
オススメ度     ★★★*


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