こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

1秒先の彼

デートに向かう途中のバスで意識が飛んだ。気づくと自分の布団で寝ている。ポケットに入れた札束は砂になっている。慌てて待ち合わせ場所に行くと翌日になっていた。物語は、消えた一日を取り戻そうとする男と、彼から一日を奪った女の奇妙な因縁を描く。美しい声で失恋を歌うストリートミュージシャンに出会った。その人柄と笑顔に恋をした。カネの話を持ち出されても疑うことなく用意した。ところが、楽しみにしていた休日の記憶がすっぽりと抜けている。警察に話しても相手にされない。周囲の人からも馬鹿にされるだけ。失せものを探すうちにカメラ女子が絡んでくる。長宗我部、釈迦牟尼仏、勘解由小路。画数の多い希少苗字を持つ人々の、名前を手書きしなければならない状況での苦労が少し理解できた。

日曜日に桜子と花火を見に行く約束をしていたハジメは着替えた服のまま目覚めるが、すでに月曜日になっていた。仕方なく勤務先の郵便局窓口に座っていると、赤ら顔の女が切手を買いに来る。

ハジメも顔が真っ赤に日焼けしている。さらに、いつの間にかビーチで取られた写真が店頭に飾られている。まったく訳の分からないまま、ハジメはいなくなった桜子よりもいつも切手を買いに来るカメラ女子・麗華の行方を追う。後半は麗華の視点からハジメを追うのだが、ハジメは自覚している以上にやさしさと思いやりのある人間であることが語られる。そこで明らかになっていくふたりの過去。きつい言い方でもどこかはんなりした部分を残す京ことばのやり取りが非常に耳に心地よく、桜子が口にする “共通語” はむしろ冷たさを感じた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして迷い込んだ、あらゆる人々が静止した世界。そこで自由に動き回れるのはある共通点を持った人だけ。この、時の凍結シーンがよくできていて、俳優がただじっとしているだけの緩さとは違う、感情や知覚を完全に遮断した感覚がリアルに再現されていた。洛中と宇治はそれほど離れていないが、やっぱり日本海側の天橋立は遠い。その距離感もうまく再現されていた。

監督     山下敦弘
出演     岡田将生/清原果耶/福室莉音/片山友希/しみけん/笑福亭笑瓶/羽野晶紀/加藤雅也/荒川良々
ナンバー     129
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://bitters.co.jp/ichi-kare/#modal