こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Pearl パール

こんな田舎を抜けだして華やかな世界で生きていきたい。なのに夫は農家を継いだまま戦場に行ってしまった。母は生活全般に口うるさい。車いすの父は無言で見つめてくる。物語は、閉鎖的な環境に押しつぶされそうな女が徐々に正気を失っていく過程を描く。映画の中で高く足を上げるダンサーになりたい。食べていくのがやっとの暮らしでは、そんな夢を見ることはすら許されない。唯一の希望だった夫もなかなか復員してこない。義妹の提案で受けたオーディションではすべての思いをダンスに昇華することができた。だが思い通りにならないのが人生。やがて彼女は自分を不幸にした人々を恨むようになる。いかにもドイツ人的な母を演じたタンディ・ライトの厳格な態度と言動は、自由を奪われた人間は心が歪むと教えてくれる。

人里離れた農場で両親と暮らすパールは家畜の世話と父の介護に明け暮れている。ある日、町に出たついでに映画館に立ち寄ると、声をかけてきた映写技師に性的な妄想を抱く。

両親との息が詰まるような日常、慰めになるのは夫からの手紙だけ。町からの帰り、パールはトウモロコシ畑の案山子をパートナーに見立てて踊った後、仰向けに寝かし騎乗位になって喘ぐ。彼女の抑えきれない性欲は鬱屈した孤独を象徴していた。その夜、再び映写技師の元を訪れると今度は禁制の無修正ポルノ映画を見せられる。パールのリビドーは最高潮に達し、ついに己を閉じ込めていた罪悪感の殻を破る。重度障害の父を抱え一日も休めない母にとって、いまや性欲を満たしたパールは裏切り者でしかなく、さらに厳しくパールの行動を制限する。実の母娘がののしり合い憎み合う姿は、女だからこそお互いに許せない凄絶な葛藤。もはや男から愛されなくなった女の怒りと哀しみがリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、自分の夢を壊し現実に引き戻そうとする人々を次々と手にかけていくパール。説明的な音楽やフラッシュバックなど、ふた昔以上前のスタイルで表現されたヒロインの狂気はむしろ新鮮だった。

監督     タイ・ウェスト
出演     ミア・ゴス/デビッド・コレンスウェット/タンディ・ライト/マシュー・サンダーランド/エマ・ジェンキンス=プーロ
ナンバー     128
オススメ度     ★★★


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