村人は字が読めない。借用書の数字が改ざんされ、知らぬ間に負債が増えている。土地財産は差し押さえられ自殺者が後を絶たない。物語は、長期政権に就く首長が治める村で、腐敗根絶の声を上げた若者たちの闘いを描く。勤勉に働いても生活は苦しくなるのは教育をきちんと受けていないせい。六年生まで学校に通った女が学歴を自慢するシーンが、彼らのおかれた環境を象徴する。インド映画らしく恋も歌もダンスも山盛りだが、アクションでのCGは控えめで主人公が荒唐無稽の大活躍をするわけではない。その分「難聴ネタ」で笑いを取ろうとするが、勝手な思い込みで暴走しては周囲に迷惑をかけるパターンが繰り返され食傷気味になる。それでも1980年代にはカースト制度の下で搾取されていた人々の厳しい現実を教えてくれる。
放水エンジニアのチッティは、農村の人々が金融業者の取り立てに苦しんでいることに腹を立てている。帰郷した兄・クマールは村の現状に憤り村長選に立候補する。
現村長の影響力は村の隅々まで浸透し強固な支持基盤を持っている。やっと現れた対立候補にも村人は静観を決め込んでいる。だが州議員の後押しもあり徐々に支持者を集めていく。このあたり、旧弊から脱却しようとする改革の空気がみなぎり、「若い民主主義国」のエネルギーが発散する。権力者に逆らえない田舎の閉鎖的な人間関係。変わらなければいけないのに変わる勇気がない人々。農民や職人といった民衆が発散する熱気。市民革命への空気はこうやって醸成されていくと訴える。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
札束のみならず刃物まで飛び交う選挙戦は、血の抗争の様相を呈する。その過程で明らかになる現村長の悪事の数々。さらに暗殺未遂にあった州議員の看病を献身的にするチッティの思い。カーストによる差別はなくすべきと理屈ではわかっていても、ヒンズー教徒の心に染み付いた長年の悪習はそう簡単には変えられない。チッティの壮大な復讐譚はやや中だるみするものの、すべての伏線が回収される結末には大いなるカタルシスを覚えた。
監督 スクマール
出演 ラーム・チャラン/サマンタ/プラカーシュ・ラージ/ ジャガパティ・バーブ/アーディ・ピニシェッティ/アナスーヤ・バラドワージ
ナンバー 133
オススメ度 ★★*