こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イノセンツ 

言葉は話さない。喜怒哀楽も見せない。他人に興味がないようにも見える。だが本当は意識も感覚も研ぎ澄まされている。心が繊細過ぎて思いを表現できないだけ。物語は、超能力を持つ子供たちの静かなバトルを描く。自閉症の少女は、他人の意思がみえる黒人の女の子と出会って念動力を発現させる。彼女の妹にはまだ能力はないが、妹と知り合った南アジア系の男の子は念動力だけでなく他人の心を読み、操れる。さまざまな人種が暮らす団地、白人マジョリティの子供たちとは距離を置く4人はすぐに仲良くなり、大人の目が届かないところでお互いの能力を伸ばそうとする。ところが、男の子が差別的な扱いを受けたのを機に能力を暴走させていく。石や木の枝、鍋の蓋や足元の砂など身近な小物を動かすことで念動力を精神エネルギーとして表現する。そんな、派手な超能力バトルとは一線を画した映像はクールだった。

団地に引っ越してきたイーダはベンに声をかけられ小石を動かす力を見せてもらう。イーダの姉で自閉症のアナはアイーシャを通じて自分の気持ちを伝えられるようになる。

4人でつるむようになると、アナも小物を動かせるようになり、ベンのいたずらににらみを利かせるまでになる。隠れてアナをいじめていたイーダも、実は彼女に観察されていたと知ってアナに対する思いを新たにする。優しい心を持つアイーシャは彼らの考えを知るうちに、姉妹には慈しみを、ベンには危険なにおいを感じるようになっていく。彼らの性格描写がそれぞれディテール豊かで、まだ打算など働かず与えられた力をどう使いこなしていいかわからないまま直感的にベンの邪悪な意志を排除しようとする女の子3人の正義感が人間の本質的な善を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

いじめっ子を制裁したベンは、止めようとするアイーシャにも魔手を伸ばす。彼のパワーに対抗できるのはアナしかいない。うつろな表情で思考が欠如しているかのようなアナが使命感に目覚め圧倒的な集中力を発揮するシーンは、純粋な思念は世界を変えると教えてくれる。

監督     エスキル・フォクト
出演     ラーケル・レノーラ・フレットゥム/アルバ・ブリンスモ・ラームスタ/ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイム/サム・アシュラフ/エレン・ドリト・ピーターセン/モーテン・シュバルトベイト
ナンバー     140
オススメ度     ★★★★


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