こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アウシュヴィッツの生還者 

一方的にパンチを浴びても歯をくいしばって耐える。負けたら即射殺の殴り合いで無敵を誇った男は、グローブをはめた拳では倒せない。物語は、強制収容所での過酷な日々を生き延びたボクサーが、恋人を探すためにボクシングを続ける姿を描く。生き別れになった後は生死すらわからない。自分の試合が新聞記事になれば彼女の目に留まるはず。そう考えた男は、負け負けてもリングに立つ。そして新聞記者に明かした壮絶な体験。減量の必要がない階級で闘う現在と、減量をしていないのに骨と皮だけになった肉体で殴り合った過去。同じ俳優が演じているとは思えないほどの極端な外見の落差は思わず目を見張る。浮き出たあばらや鎖骨、筋肉すらそぎ落とした両腕の細さが、主人公を演じたベン・フォスターのプロ根性を象徴する。

親衛隊将校に腕っ節の強さを認められたヘルツコはユダヤ人との格闘戦を組まれ、連戦連勝を誇っていた。戦後NYでプロボクサーとなるが、当時のトラウマに心が蝕まれていく。

戦後、ヘルツコはハリーと名を変えリングに立っている。その収容所仕込みのスタイルはディフェンスを軽視してひたすら腕を振り回すファイタータイプ。たくさんの有効打をもらってもそれ以上の手数で倒そうとする。だが、洗練された相手にはその戦法は通じない。負けが込んでも引退しないのはひとえに恋人が連絡をくれると信じているから。新聞記者のインタビューに応じて収容所での出来事を告白するとユダヤ人コミュニティから白眼視されるシーンがあるが、思い出したくない記憶として口をつぐむのが第二次大戦直後の彼らの暗黙のルールだったのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして明らかになる真実。ヘルツコはいかにして同胞を死に追いやることに痛痒を感じなくなったのか。それは自分が生き残りたいからではない。ナチに殺されるくらいなら親友に殺されたいと言う男のプライドが極限状態で選択を迫られた最期の願いとして再現され、悲しみや怒りといった感情をはるかに超えた精神の揺らぎがリアルに再現されていた。

監督     バリー・レビンソン
出演     ベン・フォスター/ビッキー・クリープス/ビリー・マグヌッセン/ピーター・サースガード/ダル・ズーゾフスキー/ジョン・レグイザモ/ダニー・デビート
ナンバー     151
オススメ度     ★★★


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