こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

麻酔なしで開腹手術をしメスで身体を切り刻んでも、痛みは感じない。あらゆる人間はその進化を受け入れ、もはや苦痛は一部の恵まれた者だけが享受できる贅沢になっている。物語は、自らの体内で新しい臓器を培養し、その摘出をライブパフォーマンスアートにする男女の、魂の彷徨を描く。新しくできた臓器はどういう働きをするかわからない。今のところは何の役にも立たず、なくても困らない肉の塊として扱われている。だが、産業廃棄物を食べられるように肉体改造した男の息子がプラスティックを食べ消化する能力を持っていたことから、主人公たちの運命は大きな影響を受ける。環境に適応した人間たちが暮らす文明の退化した都市での異常な経験は、永遠に覚めない悪夢に放り込まれ、うなされ続けているような気分になる。

怪しげなアングラ空間でショーを見せるソールとカプリース。ある日、ソールは子供の死体で解剖ショーをしないかと男に持ち掛けられる。その子供は男の息子だった。

鳥の巣のようなベッドで目覚めるソール。蔓のような触手が血管につながれ体調を管理している。食事の時に座る椅子はエイリアンの化石みたいに骨ばっている。パフォーマンスで使う解剖マシンはごてごてとした装飾でコントローラーは心臓のような質感。さらに目と口を縫い合わされ全身に耳を移植された男が躍る姿は、受動的にしか生きられない人間の哀しみを表現しているよう。洗練からは程遠く、むしろ退廃とグロテスクを強調したようなそれらの異形は、のぞきこんだ深淵から見つめ返されるかのごときクローネンバーグの世界観を饒舌に具象化していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ソールたちは子供の解剖ショーを始めるが彼の体内から出てきたのはすり替えられた臓器ばかり。もはやだれが何のためにどこに向かおうとしているのかは闇と混沌の中。生殖やセックスの定義すら変わってしまったこの時代に、生まれてきた意味や生きる目標、人生の真実に価値はあるのかと問う。比喩的で象徴的で暗示的な映像は最後までイマジネーションを刺激する。

監督     デビッド・クローネンバーグ
出演     ビゴ・モーテンセン/レア・セドゥ/クリステン・スチュワート/スコット・スピードマン/ドン・マッケラー/ベルゲット・ブンゲ
ナンバー     154
オススメ度     ★★★


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